クレジット
作詞・作曲:Jon Bon Jovi / Richie Sambora
収録アルバム:Keep the Faith(1992)
プロデュース:Bob Rock
レーベル:Mercury Records
■ バンドが“次の時代”へ向かったアルバム
1992年、Bon Jovi は大きな転換点に立っていた。
80年代に圧倒的な成功を収めた
『Slippery When Wet』(1986)
『New Jersey』(1988)
その後、バンドは一度活動を停止する。
メンバーはそれぞれソロ活動を行い、
関係は決して穏やかなものではなかった。
そこから再結集して生まれたのが
『Keep the Faith』(1992)。
このアルバムで Bon Jovi は
単なる“スタジアム・ロックの成功者”から、
社会や現実を見つめるバンドへと変化した。
その象徴が、この曲だ。
「Dry County」。
アルバムのラスト近くに置かれた、
約10分に及ぶ大作。
■ “Dry County”という場所
タイトルの「Dry County」は、
直訳すると “乾いた郡”。
アメリカでは
アルコール販売を禁止している地域を
“Dry County”と呼ぶこともあるが、
この曲ではもっと象徴的な意味を持つ。
油田で栄えた町。
しかし資源が尽き、
人も金も消えていく。
夢を追って集まった人間たちが、
取り残されていく場所。
90年代初頭、
アメリカの地方都市には
こうした現実が確かに存在していた。
■ 約束の土地
Across the border they turn water into wine
Some say it’s the Devil’s blood they’re squeezin’ from the vine
国境の向こうじゃ水をワインに変えてしまうんだ
いや、あれはワインなんかじゃない、ぶどうから搾り取った悪魔の血だって言う奴もいる
つまりここは
“夢の土地”として語られた場所。
しかしその富の正体は、
石油や資源
神の奇跡のように語られるが、
実際には
人間の欲望の産物でもある。
この二行、
ブルースとかアメリカンロックでよく出てくる
“国境の向こうの危険な楽園” の匂いがする。
■ 新しい人生を求めて
I came here like so many did to find a better life
To find my piece of easy street
多くの人たちと同じように、俺もここへ来たんだ
もっとマシな人生を探しに、自分なりの“楽な暮らし”を手に入れるために
語り手は、
多くの人と同じように
新しい人生を求めてこの町に来た。
「Easy Street」。
苦労のない生活。
アメリカンドリーム。
でも、
その夢は
最初から少し危うい。
■ 夢の終わり
Now the oil’s gone and the money’s gone
All the jobs are gone
でも今はもう石油も枯れてしまって、金も消えてしまった
仕事も全部どこかへ消えてしまったんだ
これが、この曲の現実だ。
人々は去る。
町は残る。
「better life」
「easy street」
という希望の言葉から、
一気に現実へ落とされる感じ。
そして残った者たちは、
理由も分からないまま
そこに留まり続ける。
■ Dry County
Dry County, they’re swimmin’ in the sand
枯れた町で…あの連中は砂の中でもがいてる
つまり、
何もない場所で必死にもがく人々。
希望は水。
現実は砂。
この対比が
この曲のイメージを決定づけている。
■ 信仰と絶望
Prayin’ for some holy water
to wash these sins from off our hands, in
聖なる水をくれと祈っている
この手についた罪を、洗い流してもらうために
ここで出てくる holy water(聖水) は、
キリスト教で 罪を清める象徴。
つまりこの一節は
ただ仕事がなくなったとか
町が衰退したとかだけじゃなくて、
その繁栄の中で
人間がやってきたことへの 後ろめたさ を感じている。
金のために無理をした
誰かを傷つけた
環境を壊した
そういうもの全部をひっくるめて
「この手についた罪を洗い流してほしい」
と祈っている。
そして、この歌は
ただの油田云々の話じゃなくて
夢を追った町の栄光と、そのあとに残る罪悪感
そこまで描いている、
なかなか深い一文。
“In the blessed name of Jesus,” I heard a preacher say
「祝福されたイエスの御名によって」牧師がそう言うのを、俺は聞いた
牧師は言う。
神はいつか戻ってくる。
しかし語り手は、
その言葉を
完全には信じていない。
酒を飲みながら説教する牧師。
燃えるような喉の渇き。
ここには
信仰と現実の距離がある。
■ 人生の報酬
A man spends his whole life waitin’, prayin’ for some big reward
人は一生を費やす、ただ待ち続けて、祈り続けて
いつか大きな報いが自分に与えられることを待って…
しかしその報酬が
必ずしも救いとは限らない。
夢を追った結果、
残るのは
虚しさだけかもしれない。
この一節は、
Bon Jovi の歌詞の中でも
かなりシニカルな部分だ。
■ Richie Sambora のギターとJon の歌声
この曲のもう一つの中心は
Richie Sambora のギターだ。
長いソロ。
ブルース的なフレーズ。
感情を引き延ばすような音。
派手な速弾きではない。
ただ、
砂漠の風のような音が鳴る。
そこに Jon Bon Jovi のシャウトが重なる。
80年代の派手なギターとは違う。
大人になった Bon Jovi の音だ。
■ おじさんギタリストとして
若い頃、
Bon Jovi は“派手なバンド”だった。
でもこの曲を聴くと、
そういうイメージが少し変わる。
人生は、
成功だけでは続かない。
夢を追って、
それが崩れて、
それでも生きていく。
「Dry County」は、
その現実を歌っている。
そして最後まで
解決は提示されない。
町は乾いたまま。
人も救われない。
それでも
ギターだけは鳴り続ける。
この曲を聴くと、
若い頃のロックと
今のロックのあいだにある
時間の重さを感じる。
だからこの曲は、
Bon Jovi の中でも
特別な位置にある。

