🎵『訪れる夜だけに』ZIGGY (1992)
アーティスト:ZIGGY
作詞:森重 樹一
作曲:戸城 憲夫
収録アルバム:『YELLOW POP』(1992年6月25日)
静かな夜に息づく森重樹一の祈り
森重樹一
掠れた低音に滲む哀愁、そして高音で突き抜ける瞬間の切なさ——
それは叫びでも怒りでもなく、 “生きる証明”のような声だ。
力強さの中に儚さがあり、都会の夜を駆け抜けた男の影と光、その両方を抱えた唯一無二の響き。
夜の帳が降りる瞬間、視界に収まりきらない光と影が街の中で混ざり合う。ZIGGY の「訪れる夜だけに」は、その刹那を切り取った、甘美でありながら鋭利なロック・バラードだ。
冒頭の〈何処かに忘れた 傷ついた銀色の羽根 突然空の隙間から落ちてきた〉という歌いだしからして、森重樹一の詩は幻想的で、かつ明晰だ。
銀色の羽根──それは失われたものの象徴であり、夜という時間の深みに沈む過去と向き合おうとする意志のようにも聞こえる。
作曲を手掛けた戸城憲夫のメロディは、抑制の効いたギターと穏やかなリズムの中で、夜の静けさと期待の揺らぎを併せ持つ。ZIGGYの演奏は、夜を走る車のライトのように前へ、そして少しだけ左へと曲がる。軽やかだが決して軽薄ではない。「訪れる夜だけに心を捧げて」というサビのフレーズには、日常から解放される時間としての“夜”への賛歌がこめられており、同時にそこに懸ける覚悟も感じられる。
この曲の魅力のひとつは、煌びやかな夜景の裏側にある孤独や儚さを正面から歌っている点だ。〈マネキンの髪を指で遊ばせて 波のない海の底へ沈むのさ〉という描写には、夜の街の無表情な顔、そしてそこに流れ込む個人のうねりが透けて見える。
森重のボーカルには、鋭さと優しさが同居している。声を張るのではなく、むしろ抑えた口調で世界を見渡す。「夜だけに」という限定された時間の中で、自分を解放し、もうひとつの顔を見せる者たちに対してのエールにも聞こえる。彼は叫ぶのではなく、静かに語る。そしてその語りが、リスナーを夜の世界へと引き込む。
この曲は、ただ“夜のロック”という枠を超えて、都市の灯りの裏側、人間の影、人間の光を描き出す。1992年という時代背景、バンドとしてのZIGGYの成熟期において、この種の内省的な楽曲が生まれたことは、彼らの音楽的レンジの広さを証明するものだ。
「訪れる夜だけに」は、夜の訪れを待つ者の歌であり、夜の中で自分と向き合う者の歌である。灯が消えず、静けさが怖さを孕みながらも美しい時間帯を、ZIGGYは音で、言葉で、確かに捉えている。夜のハイウェイを走るように、耳を澄ませてこの曲と向き合ってみてほしい。

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