🎵『There Is a Light That Never Goes Out』 The Smiths (1986)
There Is a Light That Never Goes Out
アーティスト:The Smiths
収録アルバム:The Queen Is Dead (1986)
作詞:Morrissey
作曲:Johnny Marr
プロデュース:Morrissey, Johnny Marr
レコーディング:1985年9〜11月 Jacobs Studios, Farnham, Surrey, UK
エンジニア:Stephen Street(アルバム『The Queen Is Dead』)
ボーカル:Morrissey
ギター:Johnny Marr
ベース:Andy Rourke
ドラムス:Mike Joyce
ザ・スミス(以降 スミス)の「There Is a Light That Never Goes Out」は、ロックの“名曲”という言葉が陳腐に聞こえてしまうくらい、多くの人にとって個人的な祈りの歌になってしまったタイプの一曲だ。
アルバム『The Queen Is Dead』(1986)の中にさりげなく収められたこの曲は、バンド解散から数年後の1992年になってようやくシングル・カットされるのだが、もはやチャート順位よりも“心の中での順位”で語られることの方が似つかわしい存在だ。
音楽的には、ジョニー・マーらしい煌めくギターがすべての土台になっている。ローリング・ストーンズによるマーヴィン・ゲイ「Hitch Hike」のカバーから借りてきたという有名なコード進行── F♯m – A – B の上昇型シークエンス──に、マーは自分のメロディ感覚をはめ込み、結果として“いかにもスミス的”なサウンドに変換してしまう。
ストリングス(実際にはシンセ/オーケストレーション)が淡く揺れ、リズム隊は決して前に出過ぎない。全体としては華美ではないのに、イントロの時点でなぜか胸の奥がざわつく。その「ちょっとだけドラマを予感させる感じ」が、この曲の情緒を象徴している。
歌詞の主人公は、典型的な“モリッシー的語り手”だ。家にいたくない、帰りたくない若者が、車で夜の街をさまよいながら、「いっそバスに轢かれて死んでしまえたら、それはそれで幸福だ」と本気とも冗談ともつかない願望を口にする。
死のイメージは極端だが、その底にあるのは破滅願望というより、「この世界のどこにも居場所がない」という感覚だ。だからこそ、「君のそばで死ねるなら、それでいい」というラインが、安っぽいドラマではなく、切実なロマンティシズムとして響いてしまう。
この曲が面白いのは、ロマンチックな逃避行のフォーマットを借りていながら、その奥に“居場所探し”の物語が埋め込まれているところだ。モリッシーが若い頃から偏愛していた映画『理由なき反抗』やイギリスのキッチンシンク・ドラマの空気──家族からも社会からも浮いてしまったアウトサイダーが、夜の街にかろうじて自分の居場所を見つけようとする──が、歌詞の行間に滲んでいる。
「決して消えることのない光」とは何なのか。宗教的なメタファーとして読むこともできるし、好きなバンドや映画、街のネオンの明かりと解釈することもできる。だが、スミスのファンにとっては、その“光”そのものが、このバンドの音楽だったのかもしれない。
家庭や学校や職場のどこにも、自分の居場所がないように感じる夜でも、部屋のスピーカーからこの曲が流れた瞬間だけは、「この感覚をわかっている誰かが、世界のどこかに確かにいた」と思える。そのこと自体が、 “消えない光”なのだ。
ジョニー・マーは後年、この曲を初めてスタジオで録ったとき、
「自分が今まで聴いた中でいちばんいい曲だと思った」と語っている。
作り手本人がそう感じてしまう瞬間というのは、理屈では説明しきれない。完成したテイクを聴き返したとき、スタジオの空気がわずかに変わる
──その変化を、メンバー全員が同時に察してしまう、あの感覚。マーの証言からは、そんな“手応えの記憶”がにじんでいる。
批評的な評価も、この曲の“特別扱い”ぶりを裏付けている。NMEが選ぶ「史上最高の楽曲」リストで上位に入り、Rolling Stoneの「史上最高の500曲」にも名を連ねるなど、もはやインディ・ロックという枠を超えて、80年代ロックの象徴のひとつとして語られている。
にもかかわらず、実際に曲と対峙したときに感じるのは、“名曲”の威圧感ではなく、驚くほど個人的で、ひそやかな告白に立ち会ってしまったときのような居心地の悪さと、奇妙な安堵だ。
誰の人生にも、「このままどこか遠くへ行ってしまいたい夜」が一度はやって来る。そんな夜に再生ボタンを押すと、マンチェスターのどこかを走る古い車の助手席に、なぜか自分も乗り込んでいる気がしてくる。
フロントガラスの向こうで、街の光が流れていく。そのどれもが、決して自分を歓迎しているわけではないのに、なぜか一つひとつが愛おしい。「There Is a Light That Never Goes Out」は、そんな夜にだけちゃんと意味を持つ、きわめてプライベートなアンセムだ。

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