🎸 おじさんギタリストシリーズ 懐かしい場所に帰ってきた

久しぶりに、あのスタジオのドアを開けた。

何度も機材を運び込んだ、あの重たいドア。
取っ手の感触も、床のきしむ音も、ほとんど変わっていない。

変わったのは、たぶん自分のほうだ。

退院して家に戻ってきてからも、ギターには触っていた。
でも、どこか以前とは違う。

指は思うように動かないし、
声も前みたいには出ない。

それでも、
「一度スタジオに来いよ」

そんな連絡をくれたのが、昔からのバンド仲間だった。


三人編成のバンド。

若い頃から、ずっとこの形で音を出してきた。

私がギターと歌。
もう一人のギター。
そしてベース。

三人だけの音。

あの頃は、速く弾くことや、派手なフレーズに憧れていた。
でもこの三人で鳴らす音は、どちらかというと景色の後ろに吹く風みたいな音だった。

気がつけば、長い付き合いになった。


スタジオに入ると、
二人は昔とほとんど変わらない顔で座っていた。

「久しぶり」

それだけ。

病気の話も、
大げさな言葉もない。

アンプの電源を入れて、
チューニングをして、
いつものように音を出す。

それだけだった。


正直に言うと、
昔みたいには弾けない。

指はまだ少し痺れるし、
コードチェンジも遅れる。

声も、前みたいには出ない。

だから今回は、歌わない。

とりあえず、インストバンドになった。

誰が歌うかなんて、
あとで決めればいい。

そんな話だ。


昔からの友人というのは不思議なもので、
こちらが少し遅れても、
テンポを合わせてくれる。

フレーズが少し崩れても、
何も言わずに次の小節に連れていってくれる。

文句ひとつ言わない。

たぶん、私の指の様子も、
声の様子も、
全部分かっているのだと思う。

でも、それを口には出さない。

ただ音を鳴らす。

それだけだ。


三人で音を出す。

しばらくすると、
体が思い出してくる。

ああ、
この感じだった。

完璧じゃない。
むしろ、ところどころ危なっかしい。

でも音は、ちゃんと前に進んでいる。


気がつくと、
少し笑っていた。

戻ってきたんだな、と思った。

昔みたいに弾けるわけじゃない。
声もまだ戻らない。

でも、音はここにある。

この場所にまた立てたこと。
この三人でまた音を出せたこと。

それだけで、十分だ。


おじさんギタリスト、
懐かしい場所に帰ってきました。

今はただ、
また演奏できることに感謝しています。 🎸

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