久しぶりに、あのスタジオのドアを開けた。
何度も機材を運び込んだ、あの重たいドア。
取っ手の感触も、床のきしむ音も、ほとんど変わっていない。
変わったのは、たぶん自分のほうだ。
退院して家に戻ってきてからも、ギターには触っていた。
でも、どこか以前とは違う。
指は思うように動かないし、
声も前みたいには出ない。
それでも、
「一度スタジオに来いよ」
そんな連絡をくれたのが、昔からのバンド仲間だった。
三人編成のバンド。
若い頃から、ずっとこの形で音を出してきた。
私がギターと歌。
もう一人のギター。
そしてベース。
三人だけの音。
あの頃は、速く弾くことや、派手なフレーズに憧れていた。
でもこの三人で鳴らす音は、どちらかというと景色の後ろに吹く風みたいな音だった。
気がつけば、長い付き合いになった。
スタジオに入ると、
二人は昔とほとんど変わらない顔で座っていた。
「久しぶり」
それだけ。
病気の話も、
大げさな言葉もない。
アンプの電源を入れて、
チューニングをして、
いつものように音を出す。
それだけだった。
正直に言うと、
昔みたいには弾けない。
指はまだ少し痺れるし、
コードチェンジも遅れる。
声も、前みたいには出ない。
だから今回は、歌わない。
とりあえず、インストバンドになった。
誰が歌うかなんて、
あとで決めればいい。
そんな話だ。
昔からの友人というのは不思議なもので、
こちらが少し遅れても、
テンポを合わせてくれる。
フレーズが少し崩れても、
何も言わずに次の小節に連れていってくれる。
文句ひとつ言わない。
たぶん、私の指の様子も、
声の様子も、
全部分かっているのだと思う。
でも、それを口には出さない。
ただ音を鳴らす。
それだけだ。
三人で音を出す。
しばらくすると、
体が思い出してくる。
ああ、
この感じだった。
完璧じゃない。
むしろ、ところどころ危なっかしい。
でも音は、ちゃんと前に進んでいる。
気がつくと、
少し笑っていた。
戻ってきたんだな、と思った。
昔みたいに弾けるわけじゃない。
声もまだ戻らない。
でも、音はここにある。
この場所にまた立てたこと。
この三人でまた音を出せたこと。
それだけで、十分だ。
おじさんギタリスト、
懐かしい場所に帰ってきました。
今はただ、
また演奏できることに感謝しています。 🎸
