🎵『Just South of Nowhere』 Gin Blossoms(1991)

Just South of Nowhere – Gin Blossoms

収録アルバム: Up and Crumbling(1991)
作詞・作曲: Gin Blossoms
プロデュース: Gin Blossoms
レーベル: A&M Records

Up and Crumbling
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この曲は、いわゆる「逃避の歌」だ。
ただしそれは、勢いで何かを投げ捨てる若さの逃避ではない。

行き先は分からない。
でも、戻らなければならない場所だけは、はっきり分かっている。
そんな人間のための逃避だ。

Gin Blossoms がずっと描いてきた
「町に縛られたまま大人になってしまった感覚」。
その中でも、この曲は最も静かで、最も現実的な一編だと思う。

この曲を書いた Jesse Valenzuela は、
歌い手である Robin Wilson
長年、音楽的な実務面で支えてきたギタリスト/ソングライターだ。

派手な物語を足さず、
感情を煽りすぎず、
それでも「歌として地に足をつける」。

だからこの曲は、
逃げているようで、実は現実から一歩も離れていない。

そしてその感触が、
“Just south of nowhere” という場所を、
単なる比喩ではなく、
誰の中にもある現在地として残すのだと思う。


帰れない場所の少し手前

■ Verse 1

Meet me out past the cottonwoods, where we ran as kids
綿の木の向こうで会おう
子どもの頃、走り回っていたあの場所で
Straight out past the cemetery, where the river turns to ditch
墓地を越えて川がただの用水路に変わるあたりまで
This car I’m driving can’t drive me fast enough
この車じゃ、どんなに飛ばしても足りない
Thirty miles of potholed roads got me shaking like a drunk
穴だらけの30マイル酔っぱらいみたいに身体が揺れる
Straight back far away, a long ways from here
まっすぐ遠くへここからずっと離れた場所へ
Just south of nowhere…
どこでもない場所の、ほんの少し南へ

ここで描かれる風景は、理想郷じゃない。
そして「行き先」じゃなくて「距離」だと思う。
何かになりたいとか、どこかへ辿り着きたいわけでもない。
ただ、今いる場所から少しでも離れたいだけ。

子どもの頃の記憶、墓地、壊れかけの道、揺れる車。
全部が「戻れない現在」を際立たせる背景になっている。

それでも「子どもの頃に走った場所」へ向かう。
この主人公は、未来じゃなく、
過去にしか助けを求められないところまで来ている。

“Just south of nowhere” は逃避先じゃない。
逃げきれないと分かっていながら、それでもアクセルを踏む瞬間の気持ち。
その曖昧さが、この曲をただのロードソングにしなかった。


■ Verse 2

Static on the radio gave out five miles back
ラジオは5マイル前からノイズだらけ
And I’m singing some old Marshall’s song just for laughs
昔のマーシャルズの曲をふざけて口ずさんでる
My head aches from cigarettes, my eyes are edged with sleep
タバコで頭は痛い目は眠気で縁が滲んでる
Meet out past the muddy ditch beneath the Palo Verdes trees
泥の溝を越えてパロ・ヴェルデの木の下で会おう
Straight back far away, a long ways from here
まっすぐ遠くへここからずっと離れた場所へ
Just south of nowhere…
どこでもない場所の、ほんの少し南

ここはもう、完全に「戻り道のない夜」だ。

ラジオは入らない。
歌っているのは、真面目に聴いてた曲じゃなくて、
昔なんとなく覚えた(Marshall Crenshawの)歌を
“笑いながら”口ずさむだけ。

タバコで頭は重く、眠気で視界も滲んでいる。
判断力も感情も、少しずつ鈍っていく時間帯。

それでも「会おう」と言う。
街灯もない、泥の溝と木の影しかない場所で。

ここでの Just south of nowhere は、
もう逃避ですらない。
疲れ切った状態で、それでも誰かの存在だけを頼りに
ハンドルを握り続けている、その感じ。

この曲が沁みるのは、
希望があるからじゃなくて、
希望を語る元気すらない瞬間を、ちゃんと歌っているからだと思う。


■ Verse 3

Monday morning takes me back to where I have to be
月曜の朝は また“戻らなきゃいけない場所”へ連れていく
Full of half assed-promises, this shit just ain’t for me
中途半端な約束だらけこんな人生、俺には合わない
Meet me out past the cottonwoods, where we ran as kids
綿の木の向こうで会おう子どもの頃に走ってた、あの場所で
Straight out past the cemetery, where the river turns to ditch
墓地を越えて川が溝に変わる、その先まで
Straight back far away, a long ways from here
まっすぐ遠くへここからずっと離れた場所へ
Just south of nowhere…
どこでもない場所の、ほんの少し南へ

ここで月曜の朝が来る。

逃げ切れなかった現実が、
容赦なく「元の場所」へ引き戻してくる。

中途半端な約束。
自分でも守る気のなかった言葉。
それを繰り返す生活に、はっきりと「合わない」と言っている。

だからもう一度、同じ呼びかけをする。

子どもの頃に走っていた場所へ。
墓地を越えて、川がただの溝になる、その先へ。

成長でも再生でもない。
ただ、いちばん嘘がなかった場所へ戻ろうとする衝動。

Just south of nowhere は、
どこかへ行きたい気持ちと、
どこにも行けない現実の、ちょうど境目だ。

この曲は前に進まない。
でも立ち止まったまま、ちゃんと息をしている。

だから、こんなにも静かに残る。


■ それでも、走る理由

「Just south of nowhere」は、目的地の名前じゃない。

ラジオはノイズだらけで、車は思ったほど速くもなくて、
月曜の朝は結局、元の場所へ引き戻してくる。
それでも、ほんの少しだけ遠くへ行こうとする。

子どもの頃に走っていた場所を思い出し、
ふざけて古い曲を口ずさみ、
「こんな人生、俺には合わない」と心の中で呟きながら。

若さでも、反抗でもない。
逃げ切れないと分かっている大人が、それでもハンドルを握る理由。

諦めきれない感覚を、まだ手放していないという証拠だ。

この曲を聴き終えたあと、なぜかすぐ立ち上がれないのは、
物語が終わらないからじゃない。
自分の中にもまだ、どこでもない場所へ向かう道が残っていると気づいてしまうからだ。

走り続けなくてもいい。
でも、降りてしまうには、まだ早い。

そんな場所に、この曲は静かに立っている。

Up and Crumbling(1991)

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