Words & Music: 宮沢和史
From: A Peacetime Boom(1989)
Label: Sony Music Direct
Style: スカビート(裏拍基調)
■ 当時は「裏拍」なんて言葉を、誰も気にしていなかった
この曲を聴くと、
まず体が先に反応する。
裏で跳ねるリズム。
軽やかなスカビート。
今なら
「スカだね」「裏拍が気持ちいいね」
なんて言えるけど、
当時はそんな分析、ほとんどしていなかった。
ただ、
気づいたら足が動いていた。
そして、
初期のTHE BOOMは素晴らしい曲が多かった。
おじさんギタリストとして正直に言うと、
ギターを構える前に
腰が勝手に揺れる曲は、
だいたい信用できる。
■ 英語じゃないのに、どこか“遠く”へ連れていく歌
ほろにがい日はバスに乗り
となり町まで走ります
冒頭から、
移動手段は都市バス。
飛行機でも、
夜行列車でもない。
都市バス。
この時点で、
THE BOOM は
“遠くへ行く話”をしていない。
■ 空想は壮大、足元は現実
小銭集めて宇宙への
おてがるな旅 ミステリーはつづく
宇宙、と言いながら
やっていることは
小銭集め。
このスケール感のズレが、
たまらなくTHE BOOMだ。
夢を見るけど、
地に足はついたまま。
■ 追われても、降りない
黒いマントの殺し屋が
追いかけてくる僕をさらいに来る
物騒な妄想が広がっても、
舞台は変わらない。
運転手さんとばしましょ
ちっちゃなバス停なんかとばしましょ
逃げるけど、
降りない。
この感じ、
若い頃の自分にも心当たりがあって
少し居心地が悪い。
■ 都市バスという“避難所”
都市バスの中カラッポ頭
遠くへ逃げる勇気ないなら
都市バスの中世田谷の中
雲がくれの日々を楽しもうよ
ここが、この曲の核心だと思う。
遠くへ行けない。
勇気もない。
でも、
今いる場所を、少しだけ楽しくすることはできる。
都市バスは、
現実から完全に逃げるための乗り物じゃない。
現実の中で、
一息つくための場所。
■ 古本屋と、他人の心
人恋しい日はバスに乗り
古本屋の前で下車
他人の心のぞきたくて
涙でしわになったページさがす
ここ、
おじさんになるほど効く。
古本屋で、
誰かの人生の痕跡を探す感じ。
……実は、
今でもたまにやっている。
ちょっと恥ずかしい。
■ 裏拍の軽さと、歌詞の孤独
スカビートは明るい。
跳ねる。
楽しい。
でも、
歌詞はずっと
孤独と妄想の中にいる。
このギャップが、
THE BOOM 初期の強さだったと思う。
宮沢和史は、
深刻になりすぎない。
だから、
聴く側も
救われすぎずに済む。
■ ギタリストとして、この曲をどう聴くか
ギターは、
リズムの一部。
前に出ない。
でも、いなくなると成立しない。
裏拍を刻むというのは、
「目立たないことを続ける」作業だ。
若い頃は
ソロを弾きたかった。
今は、
こういう曲で
ちゃんと裏を支えられる人のほうが
かっこいいと思っている。
……完全に年を取った証拠だ。
■ まとめないけど、これだけは
「都市バス」は、
逃げの歌じゃない。
かといって、
前向き一辺倒でもない。
逃げきれない人間が、
今日をやり過ごすための歌だ。
世田谷の中をぐるぐる回りながら、
それでも
音楽は、ちゃんと前に進んでいる。
おじさんギタリストとしては、
こういう曲が
一番、長く残る。
派手じゃないけど、
降りる理由が見つからない。
そんな一曲だ。

