INXS レビュー 三部作 ①
作詞:Michael Hutchence / Andrew Farriss
収録アルバム:Kick(1987)
プロデュース:Chris Thomas
全米チャート:Billboard Hot 100 7位(1988)
◆ “勢い”ではなく、“グルーヴ”で世界を制したINXSの決定打
「New Sensation」は、INXSというバンドの本質――
肉体的で、知的で、そして異様に洗練された“グルーヴ感” を、
3分ちょっとに完璧に封じ込めた楽曲だ。
派手なイントロがあるわけでもない。
ギターが前に出てくるわけでもない。
それなのに、一度耳に入ると、身体のどこかが勝手に動き出す。
この曲が放つ“新しい感覚”とは、
刺激ではなく、支配 に近い。
◆ Andrew Farriss の作る「隙間」が、Michael Hutchence を解き放つ
INXSの音楽は、
ギター/ベース/ドラムが「主張しない」ことで成立している。
Andrew Farriss のキーボードとコード設計は、
音を埋めるのではなく、余白を作る ことに徹している。
そこに Michael Hutchence の声と身体性が滑り込む。
“Live, baby, live
Now that the day is over
I got a new sensation”
「生きろ、ベイビー。いまを生きろ。
一日が終わった今、
俺は“新しい感覚”を手に入れた。」
「生きろ、いまを生きろ」
この言葉が説教に聞こえないのは、
彼が“言葉”より先に 体温で歌っている からだ。
Michael Hutchence は、
ロックスターである前に リズムの中にいる男 だった。
◆ ギターが前に出ないのに、ギタリストが惹かれる理由
ここで、私の話を少し。
ギターリフや奏法で曲を好きになる私としては、
彼らや”Level 42″,”Style Council” の裏拍ギターを聞いて
渋谷系(スカ的ニュアンスを含んだ)音楽へ
少し聞き(弾き)かじっていった雑食おじさんである。
INXSのギターは、
「ここを聴け」と主張しない。
だが、裏拍に置かれたカッティング が、
曲全体の腰を決めている。
これは Level 42 や、後の渋谷系のファンク/ポップ感覚にも通じる部分で、
ギタリストほど「やられてること」に気づいてしまう。
弾きすぎない。
出しゃばらない。
それでも、いないと成立しない。
この美学に、何度も背中を押されてきた。
◆ “昼と夜”“夢と現実”を行き来する歌詞の構造
「New Sensation」の歌詞は、一見シンプルだが、
実は 時間と感情の移ろい を丁寧になぞっている。
“Sleep, baby, sleep
Now that the night is over
And the sun comes
Like a god into our room”
「眠れ、ベイビー。
夜が終わり、
太陽が神様みたいに
俺たちの部屋へ差し込んでくる。」
夜が終わり、朝が来る。
神のような光が部屋に差し込む。
この描写は、
恋人同士の朝とも、
一晩の高揚が醒める瞬間とも読める。
だが INXS は、
それをどちらとも限定しない。
“There really is
There really is no difference”
「結局のところ、
そこに違いなんて存在しない。」
夢と現実のあいだに、違いなんてない。
感じた瞬間こそが“真実” なのだと。
◆ サックスが入るロック、それでも“80s感”に終わらなかった理由
中盤に現れるサックス・ソロ。
これだけ聞くと、時代の産物に思えるかもしれない。
だが、このサックスは
派手さより 粘度 を選んでいる。
ファンク、ソウル、ダンスミュージックの文脈で鳴らされる音。
だからこそ、この曲は
80年代を象徴しながらも、80年代に閉じない。
◆ 「New Sensation」は、刹那ではなく“持続する感覚”の歌
タイトルは「新しい感覚」。
だが、この曲が描いているのは、
一瞬の刺激ではない。
“Got a hold on you
Right now, it’s gonna take you over”
「もう君を掴んでいる。
今この瞬間、その感覚が君をすべて支配する。」
それは、
じわじわと掴まれ、
気づいたら支配されている感覚。
恋も、音楽も、
本当に良いものはそうやって始まる。
◆ 総評:INXSは“踊れるロック”ではない。“生き方としてのグルーヴ”だ
「New Sensation」は、
ただのヒット曲でも、ダンスロックでもない。
・音を詰め込まない勇気
・前に出ないギター
・身体で歌うボーカル
・ジャンルを横断する雑食性
それらすべてが、
“無意識のうちに身体を動かす音楽” を作り上げている。
ギターを弾く人間ほど、
派手じゃないこの曲の凄さに気づく。
そして、
年を重ねた今だからこそ、
この“ちょうどいい色気”が心地いい。
INXSは、
派手に主張しないまま、
静かに、確実に、感覚を更新してきたバンドだ。
この曲を聴くたび、
私はまた少し、
音楽の“裏側”が好きになっていく。

