🎵『In the Lowlands』 CROWDED HOUSE (1988)

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🎵『In the Lowlands』 CROWDED HOUSE (1988)

「In the Lowlands」~陰と陽が相反する~

1988年に発表された Crowded House の2作目アルバム「Temple of Low Men」は、デビュー作のポップな飛躍と比べると、ひとつ深く、ひとつ静かに内面へ潜る作品でした。その中でも「In the Lowlands」は、バンドを率いる Neil Finn が持つ、メロディメイカーとしての明るさと、歌い手としての影の部分とを同時に描き出した佳曲と言えます。

In the Lowlands
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冒頭の〈Oh hell trouble is coming / Out here in panic and alarm〉という歌詞からうかがえるように、この曲は“ゆるやかな危機”を背景にしています。霧のように忍び寄る感覚、何かを失いかけているかもしれないという予感。そこに「低地(lowlands)」という言葉が挿入されることで、場所的な“底”や“試練”的な空間が象徴化されているのです。歌詞によると〈Black shapes gather in the distance / Looks like it won’t take long〉とあり、形にならない不安がじわりと迫ってくる──それを音にするという意味で、この曲は「明るく跳ねる」にはむしろ難しい構造をもっていました。

Neil Finn が公式サイト上でこの曲について言及している一節があります:

“Tchad Blake had a book in the studio of synonyms for everything under the sun, and that was a synonym for something that we discovered and we just liked the sound of it. We were just being facetious really but it also sounded weighty, like it had some kind of mystical significance.”  Neil.Finn
これは、録音時に “In the Lowlands” という言葉の響き自体に惹かれ、深い意味というよりは音感/言葉感から曲が始まったことを示しています。その“軽口”めいた出発点が、いわば「重さ」を伴った作品へと昇華していったところに、Neil Finn の才能が浮かび上がります。

音としても、この曲にはシリアスな質感があります。プロデューサーの Mitchell Froom とエンジニアの Tchad Blake が、80年代のポップロック的な“明るさ”を敢えて避けるようなアレンジを施しています。冒頭の薄くざわつくギター、リズムの転がり、そして Finn の声。その声には「僕/私がここに居る」という存在感がありながらも、どこか居場所を探しているような揺らぎがあります。先の記事でも、「Finn が“ヒット・フック”を意識していなかった」と指摘されており、まさにこの曲からその試みが読み取れます。

歌詞のサビにあたる〈Time will keep me warm / Feel my face / Now the insects swarm / In the lowlands〉というフレーズでは、 “時間”という抽象的な装置によって「暖を取る」という行為をしながらも「虫が群がる(蠢く)」「低地地方で~」という語によって安全とは程遠い風景が展開されます。つまり、「時間さえ味方にならないかもしれない」という恐れを、あえて平静なトーンで歌っているわけです。そして最後に〈Fear will take the place of desire / And we will fan the flames from on high〉と続くことで、“欲望”が“恐れ”に置き換わる瞬間を捉えています。変化と喪失の交差点を、音で、言葉で描いたこの曲のスケールの大きさは、当時の彼らには貴重な“挑戦”だったように思われます。

Neil Finn がアルバムを振り返った際、「weeping willow(しだれ柳)だ」と表現したというのも印象的です。記事によれば、「このアルバムは、憂鬱さと頑なさ(steadfastness)の混じりあった存在だ」と。 “In the Lowlands” もその木の枝のように、しなやかに揺れながら根を張ろうとしているような、そんな感触を残します。

この曲が持つ魅力は、ポップソングとして“わかりやすいキャッチーさ”を第一義とせず、むしろ“歌う意味”を音と歌詞の隙間に置いた点にあります。ヒット曲「Don’t Dream It’s Over」で世界を掴んだ彼らが、続くこの段階でこうした深みを試みたという事実こそ、Crowded House の「ただポップでは終わらない姿勢」を示していると言えるでしょう。

もちろん、聴き手によっては「明快なフックが足りない」「楽曲が迷走している」と感じるかもしれません。しかし、その“迷い”こそがこの時期のNeil Finn/Crowded Houseにとって真実だったのだと、21世紀の今だからこそ思えます。低き地に立ったからこそ、見えた風景があった。
そして、その風景を歌に出来る人は稀有です。


この曲を、ぜひ通して聴いてみてください。歌い終わったあとの余白、その静けさの中にこそ、「In the Lowlands」の本質が滲んでいます。
Crowded House の豊かな歌世界を、改めて味わうためのひとときになるはずです。

Temple of Low Men (1988)

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