― 立つ場所ひとつで、人間性まで揺らぐ ―
ライブ前、最初に迷うのは音でも機材でもない
ライブ前、ギタリストが最初に迷うのは何か。
音作り?
機材?
衣装?
違う。
立ち位置である。
ステージに立った瞬間、
おじさんギタリストは無言で周囲を見渡す。
「……俺、どこ立つんだ?」
これが毎回、
なぜか毎回、
初回プレイのように分からなくなる。
前に出ると人格が変わる
思い切って前に出てみる。
モニターが近い。
客席が近い。
照明が直撃する。
するとどうなるか。
・表情が固まる
・動きが不自然になる
・なぜか無駄に足が開く
普段は
「景色を鳴らすタイプ」
を自称しているおじさんギタリストが、
急に
“俺を見ろモード”
に切り替わってしまう。
本人も戸惑う。
「え、俺こんな前に出る人だっけ……?」
人格が揺らぐ。
下がると急に職人になる
では一歩下がってみる。
アンプの横。
ドラムはいないが、
中央奥の安心ゾーン。
すると音は安定する。
演奏も落ち着く。
ミスも減る。
だが問題がある。
存在感が、消える。
家族や友人が後で言う。
「今日さ、ギターもう一人いた?」
いた。
ちゃんと弾いてた。
音も出してた。
でも、
ステージ上では
背景と同化していた らしい。
斜め後ろという“哲学ポジション”
おじさんギタリストが最終的に行き着きがちなのが、
斜め後ろ。
もう一人のギター兼ボーカルの背中が見える。
ベースの動きが分かる。
この位置、
演奏は一番やりやすい。
だが同時にこう思う。
「……俺、
ステージ袖に近づいてない?」
一歩間違えると
スタッフ寄りの人
になってしまう。
立ち位置で変わる“音の性格”
不思議なことに、
立ち位置が変わると音も変わる。
前に出ると
→ 強くなる、速くなる、少し荒れる
下がると
→ 丁寧になる、丸くなる、慎重になる
斜め後ろだと
→ 空間を埋め始める、隙間を探し出す
これは錯覚ではない。
モニター環境、
音の反射、
視界に入る情報量。
すべてが
プレイに影響する。
ギタリストの立ち位置は、
単なる場所ではなく、
思考のスイッチ なのだ。
若い頃は気にしなかった(本当は気にしてた)
若い頃は、
「立ち位置なんてどこでもいい」
と言っていた。
実際は違う。
前に出るのは怖い。
下がるとダサい気がする。
中央は恐れ多い。
でも、それを
言葉にできなかっただけだ。
今は違う。
おじさんになると、
迷っている自分を
ちゃんと自覚できる。
それが、
少し恥ずかしくて、
少し誇らしい。
正しい立ち位置なんて、最初からなかった
ある日、ふと気づく。
「正しい立ち位置って、
最初から決まってないな。」
バンドの形、
曲の構成、
その日の体調、
その日の気分。
全部で変わる。
前に出てもいい日。
下がって支える日。
斜め後ろで空気を整える日。
どれも
間違いではない。
結局、立ち位置は“心の置き場”だった
ライブが終わり、
片付けをしながら思う。
今日の立ち位置、
正解だったかどうかは分からない。
でも、
ちゃんと音は出した。
誰かの音を邪魔しなかった。
自分も楽しめた。
それでいい。
おじさんギタリストは今日も迷う。
前に出る?
下がる?
斜め後ろ?
答えは毎回違う。
立ち位置迷子でいること自体が、
まだバンドの中に居続けている証拠 なのだ。
そして次のライブでも、
きっと同じ場所で
同じように立ち止まる。
それでいい。
それが、おじさんギタリストである。笑
