🎵『Disappear』 INXS (1990)

INXS レビュー 三部作 ③

作詞:Michael Hutchence / Andrew Farriss
収録アルバム:X(1990)
プロデュース:Chris Thomas
全米チャート:Billboard Hot 100 8位


3部作のファイナルは、
『Devil Inside』 か 『Suicide Blonde』 かと思いきや…


◆ 三部作の終わりに、この曲を置く理由

「New Sensation」
「Need You Tonight」
そして、この「Disappear」。

INXSを語るとき、この三曲は
感覚 → 夜 → 消失
という一本の流れとして聴こえてしまう。

もちろん、これは後付けの解釈だ。
だが、おじさんになってから聴き返すと、
どうしてもそう感じてしまう自分がいる。

この「Disappear」は、
INXSがまだ絶頂期にいた1990年に発表された曲だ。
ヒットもしている。
サウンドも洗練されている。

それなのに、
どこか 最初から“消える準備”をしているような気配 がある。


◆ 音は明るい。だが、コードは逃げ場を作らない

「Disappear」は、
一聴するととてもポップで、
INXSらしいダンサブルな曲だ。

だが、ギタリストとして耳を澄ますと、
この曲は 逃げない構造 をしている。

コード進行は循環する。
前に進んでいるようで、
同じ場所を回っている。

Need You Tonight の「触るギター」と違って、
Disappear は “動かすギター”。

裏拍のカッティングも健在だが、
「Need You Tonight」ほど色気を振りまかない。
どこか抑制されている。

これは踊るためのグルーヴというより、
現実を一瞬だけ忘れるための揺れ に近い。


◆ 「世界が消える」という言葉の重さ

サビで何度も繰り返されるこのフレーズ。

“And the world seems to disappear
All the problems, all the fears”

「世界が消えていくように感じる
問題も、恐れも、すべてが」

恋人と一緒にいるとき、
苦しみが消える。
恐れが消える。

これは、よくあるラブソングの構図だ。

だが、この曲では
“seems to disappear(消えたように感じる)”
という言い方が使われている。

本当に消えたわけじゃない。
一時的に見えなくなっただけ。

その“仮の救済”でしかないことを、
Michael自身がわかっていたようにも聴こえる。


◆ 「言葉は癒す」──それでも足りなかったもの

“Words are healing”
「言葉は癒してくれる」

この一行が、私はとても苦しい。

Michael Hutchenceは、
言葉を操る人だった。
声を使って、世界を魅了した人だった。

それでも、
言葉だけでは癒しきれない痛み があった。

“Say if I could
Look into myself and reason”

「もし自分自身を覗き込み、理解できたなら」

自分を理解したい。
理由を見つけたい。

だが、

“But I could never, never see
Or make sense of the deal”

「でも、どうしても見えない
この現実の意味がわからない」

ここには、
スターの孤独や、
成功の裏側の虚無が、
はっきりと滲んでいる。


◆ 光を“もらう側”として歌うMichael Hutchence

“You put the light inside this man”
「君は、この男の中に光を灯した」

ここが、この曲で最も重要な一行だと思っている。

彼は、
光を与える側ではなく、
光を“もらう側”として歌っている。

これは、
ロックスターとしては
とても珍しい立ち位置だ。

強い男の歌じゃない。
救われたい男の歌だ。


◆ その後のことを、私たちは知ってしまっている

Michael Hutchenceは、
1997年に自ら命を絶ってしまった。

この事実を抜きにして
「Disappear」を語ることは、
今となってはできない。

もちろん、この曲が直接的な予兆だったとは言えない。
だが、
“世界が消える瞬間を求め続ける感覚”
は、彼の人生とどこかで重なってしまう。

だからこそ、この曲を聴くとき、
私は少し音量を下げる。

踊るためじゃない。
聴き流すためでもない。

ひとりで、
ちゃんと向き合うために。


◆ おじさんギタリストとして、最後に

INXSは、
ただカッコいいバンドじゃなかった。

・裏拍で支える絶妙なギター
・主張しすぎないアンサンブル
・身体性と知性を併せ持った歌詞

そして何より、
弱さを隠さなかったボーカル がいた。

Michael Hutchenceは、
強く見える人だった。
だが、きっととても繊細だった。

この三部作を書き終えて思う。

彼の歌は、
消えてなんかいない。

「Disappear」は、
世界が消える歌じゃない。
世界が消えてしまいそうな人の心を、
ほんの数分だけ支える歌
だ。

その役目を、
彼は最後まで果たした。


◆ 哀悼

Michael Hutchence の声は、
今もレコードの溝の中で生きている。
夜のスピーカーから、
そっとこちらを見ている。

ありがとう、Michael。
あなたの歌は、
まだ私たちの中で鳴っている。

静かに、確かに。

X(1990)

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