Written by: Neil Finn
(※原作詩:J.R.R. Tolkien『The Hobbit』より着想)
Performed by: Neil Finn
From: The Hobbit: An Unexpected Journey
Year: 2012
■ 世界の果ての物語なのに、声は驚くほど近い
最初に断っておくと、
この曲は壮大だ。
山があり、
王国があり、
奪われた黄金があり、
復讐と誓いがある。
でも、
聴こえてくるのは
Neil Finn の“人の声”だ。
映画”ホビット 思いがけない冒険”のための曲なのに、
どこか
リビングで弾き語っているような距離感がある。
おじさんギタリストとしては、
ここで一度、
ギターを膝に置いた。
■ 英語詩と和訳で読む「霧の山」の始まり
Far over the Misty Mountains rise
「霧の山々をはるか越えて」
Leave us standing upon the height
「私たちは、高みへと立つ」
英雄譚の書き出しなのに、
声は叫ばない。
Neil Finn は、
“高み”を
誇示しない。
What was before we see once more
「かつてあったものを、再び目にする」
Is our kingdom a distant light
「あの遠い光は、私たちの王国なのか」
distant light。
ここが重要だ。
王国は、
まだ“光”でしかない。
■ 語られなかった言葉と、歌の役割
Fiery mountain beneath the moon
「月の下で燃える山」
The words unspoken, we’ll be there soon
「語られなかった言葉を抱えたまま、私たちはもうすぐ辿り着く」
この曲は、
説明をしない。
語られなかった言葉を、
そのまま連れて行く。
For home a song that echoes on
「故郷のための歌が、鳴り響く」
And all who find us will know the tune
「私たちを見つけた者は、その旋律を知るだろう」
ここで初めて、
“song” が中心に来る。
剣より先に、
歌がある。
Neil Finn らしい選択だ。
■ 忘れない者、許さない者
Some folk we never forget
「決して忘れない者がいる」
Some kind we never forgive
「決して許さない者もいる」
Haven’t seen the back of us yet
「私たちは、まだ終わっていない」
We’ll fight as long as we live
「生きている限り、戦う」
淡々としている。
熱を煽らない。
この冷静さが、
逆に怖い。
■ 孤独な山という名の場所
All eyes on the hidden door
「すべての視線は、隠された扉へ」
To the Lonely Mountain borne
「孤独な山へと(抱かれて)向かう」
“Lonely Mountain”。
物語上の地名なのに、
やけに現実的だ。
人は、
大事な場所に行くほど
一人になる。
■ 眠りと夢、そして目覚め
We lay under the Misty Mountains cold
「冷たい霧の山の下で、私たちは横たわり」
In slumbers deep, and dreams of gold
「深い眠りと、黄金の夢を見る」
We must awake, our lives to make
「目覚めなければならない。自分たちの人生を作るために」
And in the darkness a torch we hold
「闇の中で、松明を掲げて」
ここでようやく、
能動になる。
目覚めるのは、
誰かに起こされるからじゃない。
自分の人生のためだ。
■ 取り戻すべきもの
From long ago when lanterns burned
「灯りが燃えていた遠い昔から」
Until this day our hearts have yearned
「今日に至るまで、私たちの心は求め続けてきた」
What was stolen must be returned
「奪われたものは、取り戻されなければならない」
短い。
強い。
ここで多くを語らないのが、
Neil Finn の美学だ。
■ ギタリストとして、どうしても思うこと
この曲、
ギター1本で成立してしまう。
オーケストラがなくても、
山の映像がなくても、
歌は、もう立っている。
Neil Finn は、
世界観がどれだけ大きくなっても
人の呼吸を超えない旋律を書く。
それができる人は、
本当に少ない。
■ まとめないけど、正直な話
この曲は、
誇らしい、というより
自然と姿勢を正させられる。
ファンタジーの世界でも、
Neil Finn は
一切ブレなかった。
歌は、
結局いつも
人の心までしか届かない。
そして、
そこまで届けば十分だ。
おじさんギタリストとして、
そう思わされる一曲だ。

