🎸おじさんギタリストシリーズ ⑮ 弾きたいけど音が出せない編
おじさんギタリスト、家の音漏れと静かに戦う
若い頃、ギタリストにとって“音量”とは魂そのものだった。
アンプのボリュームを「とりあえず5」にするのは礼儀。
ライブ前にツマミを控えめにすると、仲間に心配されるほどだった。
「お前、なんか悩みでもあるんか?」
「風邪か? もっと上げろよ!」
そんな時代を生きてきたおじさんギタリストが、
いま、家では “無音と静けさの狭間” で戦っている。
■① まず窓の“方角”から戦略が始まる
若い頃:
「抜けがいいな!」(※ただ音が外に漏れていただけ)
今:
「この窓…向かいの寝室、直撃コースやん…」
「今日は…アンプ使わんとこ」
もはや音の抜けの良さより、
向かいの家の REM睡眠 を優先するようになった。
おじさんギタリスト、守備範囲が広い。
■② アンプじゃなくて“独り言の音量”でボリュームを決める
昔はアンプのツマミで調整。
だが今は違う。
「これくらいの声なら…大丈夫か…?」
独り言を小声でつぶやき、
その音量を基準にギターのボリュームを決めている。
つまり音量調整はギタリストではなく、
ただの小声評論家。
■③ 「今、弾いていい時間」探しが一番の仕事
15:00〜17:00 → 子どもたち帰宅中で生活音が多い
19:00 → 夕飯で鍋が煮える音がカバーしてくれる“黄金タイム”
21:00 → リスキー。勇気を試される時間帯
その結果、弾く前に深呼吸してこういう決意をする。
「今ならいける…!」
完全に特殊部隊のミッション開始前。
■④ 近所の家庭事情にやたら詳しくなる
向かいの家に赤ちゃんが生まれた。
隣の家の子が受験生。
裏の家は毎週火曜は早寝らしい。
そのうちこうなる。
-
「今日は風が強い…音流れるな」
-
「この気温なら窓閉めてるはず」
-
「季節的に洗濯物取り込む時間やな」
おじさんギタリスト、
知らぬ間に 音漏れ気象予報士 へと進化。
■⑤ アコギですら“慎重投資”対象になる
昔:
「アコギは生音やし余裕!」
今:
「……このギター、鳴りすぎるんよな」
アコギの鳴りが良すぎて困るという、
ギタリストとしては最高なのか最悪なのか分からない状況。
壁の反響まで気になり出すあたり、
もはや職業病。
■⑥ “無音ピッキング”のレベルが異常に上がる
弦に触れずに、右手だけが完璧に動く。
音は出ていないのに、
16分の刻みだけ異様に正確。
若い頃の自分が見たら絶対こう言う。
「なんで音出してへんねん!」
おじさんの返事はひとつ。
「出したいんや…俺も…」
声にならない哀愁が滲む。
■⑦ それでも“1音”だけ鳴らした瞬間、世界が変わる
こわごわ弾いた小さな1音。
ポロン…
その瞬間、なぜか胸が熱くなる。
「ああ…やっぱギター最高やな」
音量でも環境でもない。
その“1音”が全てを超えてくる。
おじさんギタリストの涙腺とリンクする音。
■⑧ そしてしみじみ思う。「静けさの中でも、ロックは鳴る」
音漏れを気にして、
スマホで“騒音計アプリ”を測る。
窓の角度を変える。
毛布を壁に立てかける。
そんな小さな努力を積み重ねながら、
今日も1音に全力を注ぐ。
50代になると、
ロックは爆音じゃない。
心が鳴っていれば、それでいい。
これに気づくのもまた、
おじさんギタリストの深みなのだ。
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