収録アルバム:Brutal Youth(1994)
作詞・作曲:Elvis Costello
プロデュース:Elvis Costello / Nick Lowe
バンド:The Attractions
レーベル:Warner Bros. Records
※ Brutal Youth は、Nick Lowe を再び迎え、
Costello が 初期の攻撃性とポップ感覚を意図的に呼び戻した作品。
■ この曲は「転落」の歌ではなく、「自覚」の歌
タイトルの “13 Steps Lead Down” は、
教会や酒場の地下階段、あるいは比喩的な「堕ちていく段差」を思わせる。
だが、この曲が描いているのは
劇的な破滅ではない。
気づいてしまった自分
そこから始まる、どうにもならない観察だ。
Verse 1
When nobody knows she puts on secret clothes
誰も見ていないところで
彼女は秘密の服を身につける
ここでの“secret clothes”は、
性的な衣装というより
他人に見せない人格の比喩に近い。
人は誰でも、
人前用と、ひとり用の服を持っている。
And lies in the meadow with her hands tied behind her back
両手を後ろに縛ったまま
草原に横たわる
自ら動けない姿勢を選んでいる。
被害者のふりをしているのか、
それとも 身動きが取れない状況を演出しているのか。
Costello は答えを出さない。
I won’t refuse if you know how to use it
使い方が分かっているなら
僕は断らない
これは誘惑への降伏ではない。
関係性の主導権が、すでに相手にあるという認識。
Just stop playing that ugly drug music
ただ、その醜いドラッグみたいな音楽はやめてくれ
“drug music” は実際の薬物ではなく、
感情を麻痺させる空気・ノリ・ムード。
自分が飲み込まれていることに、
もう気づいている。
Chorus
Thirteen steps lead down
13段の階段は、下へ続いている
一気に落ちるわけじゃない。
数えられる程度の段差。
だからこそ、止められたはずだという後悔が残る。
There’s commoners and kings
平民も王様もいる
立場は関係ない。
この構造からは、誰も逃げられない。
Everyone’s a prisoner of paper and glue and a decent pair of scissors
紙と糊と
そこそこのハサミの囚人なんだ
これは傑作な比喩。
紙=契約・書類・イメージ
糊=関係を貼り付ける言い訳
ハサミ=切れるはずの選択肢
つまり、
自分で作った関係の工作物に縛られている。
So tonight I’m drinking to your health
だから今夜は、君の健康に乾杯する
Because I just can’t stand myself
自分自身に耐えられないから
相手を責めない。
最後に向く刃は、常に自分。
Costello の怖さは、
この 自己嫌悪の正確さ にある。
Bridge
She stands and fails on fashion fingernails
流行りの長い爪の上で立とうとして
そして、転ぶ
“fashion fingernails” は、
不安定な美意識の象徴。
見た目は派手だが、
足場としては脆すぎる。
Her lovers have her walking ‘round on instruments of torture
恋人たちは
彼女を拷問器具の上で歩かせる
恋愛が、支えではなく
試練や演技の場になっている。
One of them is poisonous / The other is a thief
一人は毒
もう一人は泥棒
極端な描写だが、
実際の人物というより
関係性の性質を言っている。
So what one could give to her / The other cannot take away
一方が与えたものを
もう一方は奪えない
ここに、Costello 特有の冷静さがある。
誰かが救っても、
別の誰かが壊すことはできない。
Verse 2
Cover up that bruise, put on patent leather shoes
その痣を隠して
エナメルの靴を履け
傷をなかったことにして、
表に出る準備をする。
これは命令でもあり、
自分自身への忠告にも聞こえる。
Just stop playing that bad mood music, baby
その陰気なムード音楽は
もうやめてくれ
感情に溺れることへの拒否。
もう一度言うが、
これは相手より
自分に向けた言葉だ。
■ 音楽的な手触り
-
タイトな8ビート
-
初期Costelloを思わせる歯切れ
-
Nick Lowe のプロデュースによる乾いた音像
-
メロディはポップだが、居心地は悪い
Brutal Youth 全体に言えるが、
この曲もまた
気持ちよくさせるためのポップではない。
■ まとめにならない話
「13 Steps Lead Down」は、
恋愛の歌のふりをした
自己観察の記録だと思う。
相手がどうこうではなく、
なぜ自分は
そこに立ち続けてしまったのか。
13段
一段ずつ。
気づいた時には、
もう数えられるほどしか戻れない。
でも、
数えられるということは、
まだ意識はあるということだ。
この曲が残すのは、
希望でも絶望でもなく、
自覚だけ。
それが、
Elvis Costello という人の
いちばん信用できるところだと思う。

