🎵 Split Enz 第12章 Bonus Track

    『The Beginning of the Enz』

    Phil Juddがいなくなったあとに、始まりの音が戻ってきた

    『True Colours』まで来たところで、
    時計を少し戻したい。

    本当なら、このレコードの話は、
    『True Colours』より先にしておくべきだった。

    1979年11月。

    『Frenzy』のあと、
    『True Colours』の前。

    Split Enzは一枚のレコードを出している。

    『The Beginning of the Enz』。

    ただし、
    新しいSplit Enzのアルバムではない。

    針を落とすと、
    時間は前ではなく、1973年まで戻っていく。

    そこにいるのは、
    「I Got You」を書く前のNeil Finnではない。

    そもそもNeilは、
    まだSplit Enzにいない。

    Tim Finnがいる。

    Mike Chunnがいる。

    Phil Juddがいる。

    Miles Goldingがいる。

    Mike Howardがいる。

    Geoff Chunnがいる。

    Wally Wilkinsonがいる。

    少し進むと、
    Eddie RaynerやRobert Gilliesも入ってくる。

    まだ世界のどこにも、
    私たちが後に知るSplit Enzの完成形はない。

    というより、
    本人たちだって自分たちが何になるのか、
    よく分かっていなかった頃の音だと思う。

    それが1979年になって、
    もう一度レコードになった。

    ちょうどSplit Enzが、
    次の大きな扉へ手をかけようとしていた時に。

    未来へ進んでいるバンドの後ろから、
    昔の自分たちが追いついてきたような一枚だった。


    『The Beginning of the Enz』

    Artist:Split Enz
    Release:1979年11月
    Recording:1973–1974年
    Album:『The Beginning of the Enz』(1979)
    Songwriting:Phil Judd / Tim Finnを中心とする初期作品
    Label:Mushroom Records


    収録曲は9曲。

    「Split Ends」
    「For You」
    「129」
    「Home Sweet Home」
    「Sweet Talkin' Spoon Song」
    「No Bother To Me」
    「Malmsbury Villa」
    「Lovey Dovey」
    「Spellbound」

    第1章から読んでくださっている方なら、
    見覚えのあるタイトルがかなりあると思う。

    それも当然だ。

    このアルバムは、
    Split Enzの歴史を先へ進めるレコードではない。

    最初の『Mental Notes』より前へ戻って、
    まだSplit Endsと名乗っていた頃まで含めた音を集めている。

    1973年の最初のSingle「For You」。

    そのB面だった「Split Ends」。

    同じ1973年の
    「Sweet Talkin' Spoon Song」と「129」。

    1974年に録音され、
    翌1975年に発売された「No Bother To Me」。

    さらに、
    当時は発売されなかったDemoまで入っている。

    「Malmsbury Villa」。

    「Lovey Dovey」。

    「Spellbound」。

    だから、
    Best Albumとは少し違う。

    売れた曲を並べたものでもない。

    むしろ、
    売れるとか売れないとかいう話になる前のSplit Enzを、
    1979年になって棚の奥から出してきたようなレコードだ。


    同じ曲なのに、まだ違う人のように聞こえる

    このアルバムで面白いのは、
    後に録り直される曲が入っていることだ。

    「129」。

    「Lovey Dovey」。

    「Spellbound」。

    私たちはすでに、
    『Mental Notes』や『Second Thoughts』で、
    後の姿を知っている。

    だから順番を逆にして聴くと面白い。

    完成版を知ってから、
    昔のDemoへ戻る。

    同じ人の若い頃の写真を見る感じに少し似ている。

    顔は同じだ。

    でも、
    まだ今の表情ではない。

    特に「Spellbound」は面白い。

    1974年のこのVersionでは、
    Tim FinnがLead Vocalを取っている。

    ところが1975年の『Mental Notes』では、
    Phil JuddがLead Vocalを取る。

    同じ曲なのに、
    歌う人が変わるだけで部屋の温度まで変わる。

    Timが歌うと、
    まだ歌としてこちら側へ開いている感じがする。

    Philが歌うと、
    急に奥の暗いところへ連れていかれる。

    これは優劣ではない。

    声には、
    その人が立っている場所が出る。

    同じ言葉を歌っても、
    TimとPhilでは距離が違う。

    私は翻訳の仕事をしていても、
    似たようなことを感じる。

    同じ“goodbye”でも、

    「さよなら」

    「じゃあね」

    「もう行くよ」

    では、
    相手との距離が全部違う。

    音楽も同じなのだと思う。

    同じ曲でも、
    誰が歌うかで言葉の置き場所が変わる。

    「Spellbound」は、
    それがよく分かる一曲だ。

    I Got You
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    「129」は、まだ「Matinee Idyll」ではない

    「129」も面白い。

    後にPhil Manzaneraと録音し直され、
    『Second Thoughts』では、

    「Matinee Idyll (129)」

    になる曲だ。

    1973年版を聴くと、
    後のVersionよりずっと若い。

    当たり前なのだけれど、
    音にまだ余白というより隙間がある。

    後のSplit Enzは、
    その隙間へ色々な音を置く方法を覚えていく。

    Eddieの鍵盤。

    Robert Gilliesの管楽器。

    Noel CrombieのPercussion。

    Studioで音を重ねる方法も覚える。

    でも、この頃はまだ、
    曲そのものが裸に近い。

    私は歳を取ってから、
    こういうDemoや初期Versionが好きになった。

    若い頃は完成版の方が良かった。

    音が太い。

    演奏も整っている。

    Arrangementも完成している。

    でも今は、
    完成する前の音を聴いていると、

    「ああ、ここから考えたんだな」

    というところが面白い。

    出来上がった家を見るより、
    柱だけ立っている途中の家を見る感じだ。

    ギターを弾いていても、
    最初に何となく弾いたPhraseの方が良かった、
    なんてことがある。

    あとから考えすぎて、
    少し賢そうにしてしまう。

    そして最初のDemoを聴き直して、

    「これで良かったじゃん」

    となる。

    何十年やっていても、
    あまり学習しない。


    「Malmsbury Villa」という名前

    そして「Malmsbury Villa」。

    この曲はPhil Judd単独作で、
    1974年に録音された未発表Demoだった。

    このタイトルを見て、
    第1章あたりから読んできた人なら、
    少し引っかかるかもしれない。

    Malmsbury Villa。

    初期のTim FinnとPhil Juddが、
    曲を書いていた場所につながる名前だ。

    まだ大きなStudioもない。

    EnglandもAmericaもない。

    Phil Manzaneraもいない。

    ただ、
    若い二人が曲を作っている。

    Split Enzという長い話を追っていると、
    どうしてもAlbumやTourや脱退のような、
    大きな出来事に目が行く。

    でも最初にあったのは、
    もっと小さな時間だった。

    部屋がある。

    楽器がある。

    誰かがコードを鳴らす。

    もう一人が、
    そこへMelodyを乗せる。

    たぶん音楽というのは、
    結局そこからしか始まらない。


    1979年なのに、Phil Juddだらけのアルバム

    ここで少し、
    時間がおかしくなる。

    『The Beginning of the Enz』が発売された1979年。

    Split Enzには、
    もうPhil Juddはいない。

    Mike Chunnもいない。

    Neil Finnがいる。

    Nigel Griggsがいる。

    Malcolm Greenがいる。

    そして、
    その翌年には『True Colours』が出る。

    「I Got You」まで、
    もうそれほど遠くない。

    なのに1979年に発売された新しいレコードから聞こえてくるのは、
    Phil JuddとTim Finnが一緒に曲を書いていた頃の音だ。

    ジャケットにSplit Enzと書いてある。

    でも、
    現在進行形のSplit Enzではない。

    これは少し不思議だ。

    そして、
    ここで私はPhil Juddのことが気になった。

    このレコードが発売された頃、
    本人は何をしていたのか。

    第7章でAmerica Tourの途中、
    AtlantaでSplit Enzを離れる意思を伝えたところまでは書いた。

    そのあとNeil Finnが入った。

    Split Enzは『Dizrythmia』を作った。

    普通なら、
    Phil JuddのSplit Enzでの話はそこで終わる。

    ところが、
    この人はやっぱり一度では終わらなかった。


    Phil Juddは、一度戻っている

    1978年初め。

    Phil Juddは、
    Split Enzへ戻った。

    短期間だけれど、
    これは正式に確認出来る復帰だ。

    つまり、この時期のSplit Enzには、

    Neil FinnとPhil Juddが、
    同時にいた。

    ここは後からSplit Enzを知った人には、
    意外と見落としやすいところだと思う。

    Philの後任としてNeilが入った。

    だから、

    Phil Judd → Neil Finn

    と一直線に交代したように見える。

    実際には、
    その線が一度だけ重なっている。

    1978年初頭。

    PhilとNeil。

    二人のGuitaristがいるSplit Enzが、
    英国をTourしていた。

    しかも、
    Philはただ昔の曲を弾くために戻ったわけではない。

    新しい曲も持ってきた。

    その中の一曲が、

    「Play It Strange」。

    この曲には、
    少し悔しい話がある。


    「Play It Strange」は、消えてしまった未来だった

    1978年2月。

    LondonのRoundhouseで、
    Phil Juddが復帰したSplit Enzが演奏した。

    当時の英国音楽業界紙『Music Week』は、
    その公演をかなり好意的に取り上げている。

    そしてPhilの新曲「Play It Strange」を、
    Single Chartを狙えるほどの曲として高く評価していた。

    つまり当時、
    実際にその場で聴いた人が、

    「これは行ける」

    と思った曲だった。

    ところが、
    Split Enzはこの曲を正式なStudio Albumに残さなかった。

    私はこういう曲に弱い。

    売れなかった曲ではない。

    売れるかどうかを試すところまで、
    行かなかった曲だ。

    歴史というのは、
    残ったものだけを見ると綺麗につながって見える。

    Philが去る。

    Neilが前へ出る。

    『Frenzy』。

    『True Colours』。

    「I Got You」。

    とても分かりやすい。

    でも実際には、
    その途中に別の道が何本もあった。

    「Play It Strange」は、
    その一本だったのだと思う。

    もしPhilが残っていたら。

    もしこの曲を録音していたら。

    そこから先は想像になるので、
    この連載では書かない。

    ただ、
    そういう曲が実際に存在し、
    1978年のSplit EnzがStageで演奏していた。

    それだけで十分面白い。

    Phil JuddとNeil Finnが同じStageに立ち、
    まだレコードになっていないPhilの曲を演奏していた。

    『True Colours』へ向かう歴史の途中には、
    そんなSplit Enzもいた。


    でも、やっぱり続かなかった

    Philの復帰は長く続かなかった。

    1979年5月の『Rip It Up』のBand Fileでは、
    Robert Gilliesが1978年1月に離れ、
    Philが戻り、
    約三か月後に再び去ったことが記録されている。

    ここは少し注意したい。

    Robert Gilliesの「後任としてPhilが入った」という意味で、
    同じ楽器の役割を引き継いだわけではない。

    RobertはSaxophoneやTrumpet。

    PhilはGuitarとVocalだ。

    Split Enzは、
    空いた椅子へ同じ楽器の人を座らせ続けるようなBandではなかった。

    人が変われば、
    Bandの形そのものを変えてしまう。

    Philが戻った時もそうだった。

    Neilを外して、
    昔のSplit Enzへ戻ったわけではない。

    Neilを残したまま、
    Philが入った。

    昔へ戻ろうとしたというより、
    新しい形の中へPhilをもう一度置いてみた。

    でも、
    そこには収まらなかった。

    Philは再びEnglandを離れ、
    New Zealandへ戻る。

    そして、
    ここからがまたPhil Juddらしい。


    帰ってきたPhilの前にあったのは、Punkだった

    Aucklandへ戻ったPhilは、
    昔のSplit EnzのようなBandを作らなかった。

    むしろ、
    かなり違う場所へ行った。

    Suburban Reptiles。

    New Zealand初期Punkを語る時に、
    必ず名前が出てくるBandの一つだ。

    Philは彼らの

    「Saturday Night Stay At Home」

    をProducerとして手掛け、
    演奏にも参加している。

    ここが面白い。

    第6章で書いたように、
    Split EnzがEnglandへ着いた1976年、
    LondonではPunkが急速に存在感を増していた。

    Sex Pistols。

    The Clash。

    The Damned。

    あの頃Split Enzは、
    時代の変化を外側から受けていた。

    ところが、
    そこを離れたPhil Juddは、
    New Zealandへ戻ってPunkの中へ入っていった。

    もちろん、

    「Punkに影響されたからSplit Enzを辞めた」

    などと単純に結びつけることは出来ない。

    そこまで資料は言っていない。

    でも、
    Philが帰国後に選んだ場所が、
    Aucklandの新しいPunk Sceneだったことは事実だ。

    しかもPhilは、
    ただ見物していたわけではない。

    音を作る側へ入った。


    Phil Judd、Bassを持つ

    さらに妙な場面がある。

    Suburban Reptilesの終盤。

    Aucklandで行われた映画『Angel Mine』のPremiereで、
    Band周辺のMusicianたちが演奏した。

    そこにPhil Juddがいる。

    しかも、

    Bass。

    Guitarではない。

    そしてDrumには、
    初期Split EnzのEmlyn Crowther。

    Split Enzを追っている人間からすると、
    かなり妙な光景だ。

    Phil JuddがBassを持ち、
    Emlyn CrowtherがDrumを叩く。

    でもSplit Enzではない。

    数年前まで同じBandにいた人たちが、
    AucklandのPunk Sceneの中で、
    別の形でまた音を出している。

    歴史は、
    綺麗に枝分かれしてくれない。

    一度別れた線が、
    妙なところでまた交差する。

    こういう小さな話を見つけると、
    私は年表より人間の方が面白くなる。


    そしてChris Knox

    その『Angel Mine』の夜には、
    もう一つ先へつながる出来事があった。

    The Enemy。

    Chris KnoxのBandだ。

    後にToy Loveへつながっていく。

    そのChris Knoxが、
    Phil Juddへ声をかけた。

    PhilはThe Enemyにも、
    短期間関わることになる。

    これも長くは続かなかった。

    どうもPhil Juddという人は、
    同じ場所へ綺麗に収まる人ではない。

    Split Enzでもそうだった。

    Punk Sceneへ行ってもそうだった。

    ただ、
    その「収まらなさ」が、
    次の音へつながっていく。

    そして、
    Philの次のBandが生まれる。


    The Swingers

    1978年の終わり頃。

    Phil Judd。

    Buster Stiggs。

    Bones Hillman。

    三人でThe Swingersが形になっていく。

    BusterとBonesは、
    Suburban ReptilesにつながるMusicianだ。

    最初は四人編成も考えられていた。

    PhilとBusterがGuitar。

    BassにBones。

    そしてDrummerを探す。

    ところが、
    合うDrummerが見つからない。

    そこでBusterがDrumへ回った。

    結果として、

    Phil Judd――Guitar / Vocal。

    Bones Hillman――Bass。

    Buster Stiggs――Drums。

    三人になった。

    ずいぶん小さくなった。

    初期Split Enzには、
    Pianoがあった。

    Keyboardsがあった。

    Saxophoneがあった。

    Trumpetがあった。

    Violinまであった。

    NoelのPercussionもあった。

    衣装もあった。

    化粧もあった。

    芝居のようなStageもあった。

    The Swingersは三人。

    Guitar。

    Bass。

    Drums。

    それでいい。

    Phil Juddが、
    ずいぶん遠いところまで来たように見える。

    でも、
    曲を書く人間そのものは変わっていない。

    少し捻れている。

    どこか落ち着かない。

    なのに、
    妙に耳へ残る。

    その部分は、
    初期Split Enzから消えていない。


    最初のLiveで、Split Enzとまた会う

    そして、
    ここにも妙な縁がある。

    The Swingersの最初期のLiveは、
    Split EnzのSupportだった。

    Philが作ったBandが、
    PhilのいないSplit Enzの前で演奏する。

    なんとも説明しづらい。

    少し前まで、
    PhilはSplit Enzへ戻っていた。

    Neil Finnと一緒にGuitarを弾いていた。

    そこをまた離れた。

    New Zealandへ帰った。

    Punk Sceneへ入った。

    Suburban Reptilesに関わった。

    The Enemyにも少し関わった。

    そしてThe Swingersを作った。

    その新しいBandの最初の仕事の一つが、

    Split Enzの前座。

    こういう話を見ると、
    音楽の世界は案外狭い。

    別れたつもりでも、
    また同じStageの近くにいる。

    人間関係まで全部綺麗に整理してから、
    次の人生が始まるわけではないらしい。

    まあ、
    そっちの方が普通なのかもしれない。


    1979年、二つのSplit Enzの時間

    そして1979年。

    Split Enzは『Frenzy』を出した。

    Neil Finnがいる。

    Nigel Griggsがいる。

    Malcolm Greenがいる。

    Tim FinnのSongwritingも変わっている。

    「I See Red」のような、
    以前より直接的な曲も出てきた。

    次にはDavid Tickleと、
    『True Colours』を作ることになる。

    一方Phil Juddは、
    The Swingersで新しい音を作り始めていた。

    同じ頃、
    Mushroom Recordsが発売したのが、

    『The Beginning of the Enz』。

    レコード屋には、
    現在のSplit Enzがいる。

    Phil Juddも、
    別のBandで動き始めている。

    なのに、
    このレコードを家へ持ち帰って針を落とすと、

    1973年へ戻る。

    TimとPhilがいる。

    Mike Chunnがいる。

    まだNeilはいない。

    「For You」が流れる。

    「Split Ends」が流れる。

    「129」が流れる。

    まるで、

    「その先へ行く前に、
     ちょっと最初を思い出してみないか」

    と言われているようにも聞こえる。

    もちろん、
    レコード会社がそんな物語を考えていたのかどうかは分からない。

    これは、
    後から歴史を知った私が感じることだ。

    でも発売された時期だけを見ると、
    どうしてもそう聞こえてしまう。


    Neil Finnが、始まりを書く

    そして、
    このアルバムにはもう一つ面白いところがある。

    Neil Finnが、
    Liner Notesを書いている。

    これがいい。

    Neilは、
    この1973〜74年のSplit Enzの正式メンバーではない。

    まだTim Finnの弟だ。

    後にPhil Juddが抜けた場所へ入り、
    やがて「I Got You」を書く人間が、

    Phil JuddとTim Finnが作っていた
    Split Enzの「始まり」を振り返っている。

    Neilは、
    Split EnzがまだSplit Endsだった頃を知っていた。

    兄のBandだから、
    当然その存在は近くにあった。

    資料に残るNeilの回想では、
    1972年12月にAucklandのLevi's Saloonで、
    初期Split Endsを見た時のことにも触れている。

    つまりNeil Finnは、

    後から歴史を調べて書いている人ではない。

    まだ自分がBandへ入るなんて考えていなかった頃のSplit Endsを、
    客席側から見ていた人でもある。

    そのNeilが1979年、

    『The Beginning of the Enz』

    というアルバムの中で、
    自分がいなかったSplit Enzについて書いている。

    そして翌1980年。

    そのNeil Finnが書いた曲が、
    Split Enzの歴史を大きく変える。

    「I Got You」。

    偶然なのだけれど、
    出来すぎた順番だと思う。

    始まりについて書いた人が、
    そのすぐあとに新しい始まりを作ってしまう。


    “The”を取ると、別のアルバムになる

    ついでに、
    Split Enzらしい少し面倒な話も書いておきたい。

    『The Beginning of the Enz』。

    これは1979年のAlbum。

    ところが翌1980年、
    EnglandではChrysalisから、

    『Beginning of the Enz』

    というCompilation Albumが発売される。

    “The”がない。

    たった三文字。

    ところが、
    中身は別物だ。

    こちらには、

    「My Mistake」
    「Crosswords」
    「Bold As Brass」
    「Another Great Divide」
    「Charley」
    「Late Last Night」
    「Stranger Than Fiction」
    「Time For A Change」
    「Walking Down A Road」

    などが入っている。

    1973〜74年の初期音源集ではない。

    『Second Thoughts』や『Dizrythmia』周辺を中心にした、
    別のCompilationだ。

    『The Beginning of the Enz』。

    『Beginning of the Enz』。

    中古レコード屋で見かけて、

    「あった!」

    と思って買ったら、
    思っていた方ではない可能性がある。

    Split Enzを集めるというのは、
    時々こういう小さな罠がある。

    色違いの『True Colours』を探すだけでも大変なのに、
    今度は定冠詞まで確認しなければならない。

    老眼には、
    なかなか厳しいBandである。


    そして、このレコードは今も残っている

    面白いことに、
    『The Beginning of the Enz』は、
    単なる1979年の企画盤として消えなかった。

    2025年に編まれた初期Split EnzのArchive Set、
    『ENZyclopedia Volumes One & Two』にも、
    この9曲は収録された。

    半世紀ほど経って、
    また戻ってきた。

    「Spellbound」
    「No Bother To Me」
    「Malmsbury Villa」
    「Sweet Talkin' Spoon Song」
    「Lovey Dovey」
    「129」
    「Split Ends」
    「For You」
    「Home Sweet Home」

    1973年や1974年に録音されたものを、
    2020年代になってまた聴く。

    音楽は、
    妙な時間の残り方をする。

    本人たちは、
    そんな先まで考えて録音していなかっただろう。

    今日録る。

    次のSingleを作る。

    Liveをやる。

    何とかBandを続ける。

    たぶん、
    そのくらいだったと思う。

    でも録音された音だけは、
    本人たちよりずっとしぶとい。


    Phil Juddがいなくなったあとに

    『The Beginning of the Enz』を聴いていると、
    私はどうしてもPhil Juddを聴いてしまう。

    この連載を書き始めた時より、
    その感じは強くなった。

    Split Enzの歴史を知っていると、
    どうしてもNeil Finnへ目が行く。

    私自身、
    Neilの曲が大好きだ。

    Crowded Houseまで、
    ずっと追いかけてきた。

    でも、
    そこまでの道を一つずつ戻っていくと、

    最初のSplit Enzには、
    やっぱりPhil Juddがいる。

    変なコードを書く。

    妙なMelodyを持ってくる。

    Guitarを弾く。

    Mandolinも弾く。

    時にはSpoonsまで鳴らす。

    絵も描く。

    Stageでは、
    見ているこちらが少し不安になる。

    Tim Finnの隣で、
    Split EnzをSplit Enzらしくしていた人の一人だった。

    そして、
    そこに居続けることは出来なかった。

    でも面白い。

    PhilがいなくなったSplit Enzは、
    Philのいない音を探して前へ進んだ。

    Philもまた、
    Split Enzのいない場所で次の音を探した。

    どちらも止まらなかった。

    1979年。

    その二つの道が離れていく途中で、
    『The Beginning of the Enz』が発売された。

    そこには、
    まだ道が分かれる前の音が入っている。

    TimとPhilが一緒に曲を書いていた。

    Mike ChunnがBassを弾いていた。

    Neil Finnはまだ客席側にいた。

    誰が辞めるかも知らない。

    誰が入ってくるかも知らない。

    Englandへ行くことも。

    Americaへ行くことも。

    「I Got You」が世界中で流れることも知らない。

    ただ、
    曲を作っていた。

    今このアルバムを聴くと、
    そこが一番いい。

    始まりというのは、
    始まっている本人には、
    案外見えないものなのかもしれない。

    あとから振り返って、

    「あそこだったのか」

    と思う。

    『The Beginning of the Enz』。

    1979年に発売された、
    1973年と1974年の音。

    Phil JuddがSplit Enzからいなくなったあとに、
    Phil JuddのいるSplit Enzが戻ってきた。

    レコードを裏返せば、
    またそこにいる。

    少し変で、
    まだ整理されていなくて、
    この先どうなるのかも分からない。

    でも、

    Split Enzはもう鳴っている。

    まだ誰も、
    その続きを知らない。

    画像
    『The Beginning of the Enz』(1979)

    ボーナストラック あとがき

    さて、これで第13章へ進もうと思っていたのだけれど、
    どうもPhil Juddおじさんのその後が気になって仕方がない。

    Split Enzを離れて、
    The Swingersという新しいバンドを作ったところまでは書いた。

    ところが、このあとPhilおじさんにも、なかなか面白いことが起きる。

    Neil Finnが「I Got You」で大きな成功を手にした一方で、
    別の道を歩いていたPhilにも、思いがけない展開が待っていた。

    せっかくここまで彼の足跡を追いかけてきたのだから、
    途中で放っておくのも何だか落ち着かない。笑

    というわけで、第13章へ進む前に、
    もう一本だけBonus Trackを挟もうと思う。

    もう少しだけ、Philおじさんに付き合っていただけたら嬉しい。

    Thinkback80s



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    検索対象:『The Beginning of the Enz』(1979) Songwriting:Phil Judd / Tim Finnを中心とする初期作品 Label:Mushroom Records 収

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