🎸 おじさんギタリストシリーズ#71 知らない誰かが残してくれた日本 編

    台湾での仕事が続いている。

    仕事の関係で知り合った、30代のカップルと食事をする機会があった。

    最初は仕事の話だったのだが、食事が進むにつれて、いつものように音楽の話になった。

    私はどうも、音楽の話になると少し口数が増えるらしい。

    普段はそんなに喋る方でもないつもりなのだが、ギターの話など始めてしまうと、なかなか止まらない。

    まあ、50代になってもこのあたりは変わらないようだ。笑

    そんな中で、日本の話になった。

    二人とも、20代の頃に日本を訪れたことがあるという。

    そして、その時の出来事を話してくれた。


    何年も経って、まだ覚えていること

    日本にいた時、困ったことがあったそうだ。

    詳しい事情を聞いているうちに、彼らが本当に伝えたかったのは、
    困った出来事そのものではなく、その時に助けてくれた日本の人たちのことなのだと感じた。

    知り合いでも、友人でもない。

    まったく見ず知らずの人たち。

    そんな人たちが、とても親切にしてくれたのだという。

    二人はその時のことを、今でもよく覚えているそうだ。

    私はその話を聞きながら、なんだか嬉しくなってしまった。

    自分が何かしたわけでもないのに。

    これが少々、恥ずかしい。笑

    でも、海外で日本のことをそんなふうに話してもらえるのは、やっぱり嬉しいものだ。

    彼らが覚えているのは、観光地の名前でも、有名な料理でもなく、
    困っていた自分たちに手を差し伸べてくれた人たちのことだった。

    それが何年も経った今、台湾の食卓で語られている。

    考えてみれば、不思議なことだと思う。


    国の印象は、案外、小さなところで決まる

    海外にいると、日本について聞かれることがある。

    食べ物、街の清潔さ、電車の便利さ、アニメや音楽。

    日本には、海外の人に誇れるものがたくさんあると思う。

    でも、今回の二人の話を聞いて、少し違うことを考えた。

    国の印象というのは、案外、こういう小さな出来事で決まるのかもしれない。

    道に迷った時に声をかけてくれた人。

    困っていることに気づいてくれた人。

    見返りを求めず、ほんの少し時間を使ってくれた人。

    そういう誰かの行動が、その国の記憶になる。

    もちろん、日本にだって不親切な人はいるだろうし、誰もがいつでも優しいわけではない。

    それでも、見知らぬ外国から来た若い二人が、何年も経ってなお日本人の親切を覚えてくれている。

    そのことが、私にはとても嬉しかった。

    日本という国の良さは、建物や技術や文化だけではない。

    こうして誰かの記憶の中に残る、名も知らない人たちの優しさにもあるのだと思う。


    音楽の話をしていたはずなのに

    そういえば、食事の最初は音楽の話だった。

    どんな曲を聴くのか、どんな音楽が好きなのか。

    そんな話をしていたはずなのに、帰る頃には、私は日本の見知らぬ誰かのことを考えていた。

    音楽も少し似ているところがある。

    演奏した本人が忘れてしまったような一音を、聴いていた誰かがずっと覚えていることがある。

    弾いた側には何気ない音でも、受け取った側には大切なものになる。

    人の優しさも、そうなのかもしれない。

    あの日、彼らを助けた人たちは、自分たちの行動が何年も先まで覚えられているなんて、きっと考えていなかっただろう。

    それでも、ちゃんと残っていた。

    私は日本人として、少し誇らしい気持ちになった。

    同時に、自分も誰かにそんなふうに接することができているだろうか、とも思った。

    ……なかなか難しい。

    仕事に追われていると、つい自分のことで精一杯になる日もある。

    それでも、できるだけ人には優しくありたい。

    ギターの音は、少しぐらい間違えても弾き直せる。

    でも、人に向けた言葉や態度は、そう簡単には弾き直せないこともあるから。

    台湾で出会った二人のおかげで、そんなことを考えた夜だった。

    そして、もうひとつ。

    2011年3月11日、東日本大震災が起きた時、台湾から日本へ寄せられた多くの支援のことを、私は今でも覚えている。

    そして、2024年1月1日に起きた能登半島地震の時にも、台湾から温かい支援が寄せられた。

    あの時も、そして今回も。

    遠く離れた日本の人たちのことを思い、手を差し伸べてくれた台湾の人たちがいた。

    私は、そのことを決して忘れていない。

    今回、二人が日本で受けた親切を何年も大切に覚えていてくれたように、私の中にも台湾の人たちへの感謝がずっと残っている。

    だから、二人の話を聞いて嬉しかったのと同時に、私も心の中で「ありがとう」と言いたくなった。

    いや、本当はちゃんと言葉にして伝えたかったのかもしれない。

    こういう時に限って、普段は仕事で使っている言葉が、なかなかうまく出てこない。

    通訳の仕事までしているのに、困ったものだ。笑

    国と国の関係には、いろいろなことがある。

    でも、こうして人と人との間に残っているものも、確かにあるんだと思う。

    お互い、名前も知らない誰かの優しさを、何年も覚えている。

    なんだか、いいなぁ。

    そんなことを考えながら、台湾の夜を過ごした。

    それにしても、音楽の話から始まって、最後はこんなことを考えている。

    おじさん、最近ますます涙腺が緩くなってきた気がする。

    まだ泣いてはいない。

    ……たぶん。笑



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