🎵『The Promise』When in Rome(1988)

    曲名: The Promise
    アーティスト: When in Rome
    発表: 1987年(英国)/1988年(米国)
    作詞・作曲: Clive Farrington、Michael Floreale、Andrew Mann
    収録アルバム: 『When in Rome』(1988年)
    Producer: Ben Rogan
    Additional Production / Mix: Michael H. Brauer
    Label: 10 Records / Virgin Records

    『When in Rome』
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    言葉を選んでいるうちに、言えなくなる

    仕事で翻訳をしていると、たまに一つの短い言葉で手が止まることがある。

    意味は分かっている。

    辞書を引く必要もない。

    でも、どう訳しても、その人が本当に言いたかったことから少し離れてしまう気がする。

    そんなときは、何度も書き直す。

    一度訳した文章を消して、また書いて。

    結局、最初の言葉に戻ることもある。

    ……何をやっているんだ、私は。笑

    When in Romeの『The Promise』を聴くと、そんなことを思い出す。

    1980年代後半らしい、明るくて少し冷たいシンセサイザー。

    軽快なリズムに、耳に残るメロディー。

    何も考えずに聴いていても気持ちのいい曲だ。

    ところが、歌詞を読んでみると、歌っている男は少々困っている。

    相手に伝えたいことがあるのに、うまく言葉にならない。

    それでも、何とか伝えようとしている。

    タイトルは『The Promise』。

    「約束」である。

    でも、この曲の男は、約束する前からずいぶん迷っている。

    私は、そこが何とも人間らしくて好きなのだ。


    いつでもそばにいる、という言葉

    曲の冒頭で、主人公は相手に語りかける。

    友達が必要なら、知らない誰かを頼らなくてもいい。

    迷っているときも、危険な目に遭ったときも、自分がそばにいる。

    そんな気持ちが歌われている。

    If you need a friend
    誰かにそばにいてほしくなったら
    Don't look to a stranger
    知らない誰かを頼らなくていい

    そして、この曲では I'll always be there という言葉が繰り返される。

    「いつでもそばにいるよ」。

    英語の be there には、ただ同じ場所にいるというだけではなく、必要なときに支えになる、という意味もある。

    日本語にすると、実に優しい言葉だ。

    でも、考えてみると、なかなか大きな約束でもある。

    相手が落ち込んでいるとき。

    怒っているとき。

    こちらにも余裕がないとき。

    そんなときにも、そばにいられるだろうか。

    若い頃なら、勢いで言えたかもしれない。

    今は少し考えてしまう。

    誰かを支えるというのは、口で言うほど簡単ではない。

    それでも、主人公はまず「そばにいる」と伝えようとする。

    何か特別なことをしてあげる、とは言っていない。

    ただ、必要なときには自分を頼ってほしい。

    そんな、少し不器用な優しさがあるように聞こえる。


    約束の前にある、小さな謝罪

    そして、あのサビがやって来る。

    『The Promise』のサビは、メロディーだけを聴けば実に気持ちがいい。

    声が重なり、音が広がって、思わず一緒に歌いたくなる。

    ところが、歌っている男は、いきなり謝ってしまう。

    I'm sorry, but I'm just thinking of the right words to say (I promise you)
    ごめんよ。君に伝えるのに、ぴったりの言葉を探しているんだ。(約束するよ)
    I know they don't sound the way I planned them to be (I promise you)
    頭の中で考えていたようには、うまく言えていないのも分かってる。(約束するよ)
    But if you wait around a while, I'll make you fall for me (I promise you)
    でも、もう少し待っていてくれたら、きっと君を振り向かせてみせる。(約束するよ)
    I promise, I promise you I will
    約束する。必ず、そうするから。

    このサビは、最初から最後まで一つの気持ちがつながっている。

    言葉を探している。

    思ったように伝えられない。

    それでも、もう少し待ってほしい。

    そして最後には、約束する、と言い切る。

    私は、この順番が好きだ。

    最初から自信満々に愛を語っているわけではない。

    むしろ、自分の言葉が相手にどう届いているのか、不安で仕方がないようにも聞こえる。

    だから、言い直す。

    それでも足りない気がして、また言い直す。

    そして最後は、約束という言葉に頼る。

    それにしても、もう少し待っていてくれたら、君を振り向かせてみせるというのだから、なかなか強気な男でもある。

    恋愛というのは、こちらが頑張ったからといって、必ず報われるものではない。

    そこまで約束してしまって大丈夫なのだろうか。笑

    でも、彼はきっと大真面目なのだと思う。

    自分の気持ちをうまく伝えられない。

    それでも、伝えることを諦めたくない。

    その焦りと真剣さが、あの軽快なメロディーの中に混じっている。

    私は翻訳の仕事をしているけれど、自分の気持ちを伝えるときまで、いつも上手に言葉を選べるわけではない。

    むしろ、大切な相手ほど難しいこともある。

    軽く聞こえたら嫌だな、とか。

    重すぎると思われないだろうか、とか。

    余計なことを考えてしまう。

    結局、何でもない一言の方が、よほど気持ちを伝えてくれることもある。

    この曲の主人公も、そんなところで迷っているのかもしれない。

    約束を繰り返しているのは、自信があるからではなく、まだ自分の言葉に自信が持てないから。

    そう考えると、あの明るいサビが、少し違って聞こえてくる。


    怒ったあとにも、そばにいる

    ヴァース2に入ると、少し生活の匂いがしてくる。

    一日が終わり、相手の苛立ちもようやく収まる。

    そんな、恋愛の楽しい場面ばかりではない時間が歌われている。

    When your day is through
    君の長い一日が終わって
    And so is your temper
    苛立っていた気持ちも、ようやく落ち着いたら

    続く歌詞では、そんなときにはどうすればいいか分かっているだろう、自分はいつでもそばにいる、と語りかける。

    そして、主人公は自分の言葉についても触れている。

    Sometimes if I shout
    ときどき、声を荒らげてしまうことがあっても
    It's not what's intended
    本当は、そんなつもりじゃないんだ

    ここは、少し気になるところだ。

    誰かに強い言葉をぶつけてしまったあとで、「そんなつもりじゃなかった」と言う。

    それは確かに本音かもしれない。

    でも、言われた側が傷つかなかったことにはならない。

    年齢を重ねると、その両方を考えるようになる。

    自分では軽く言ったつもりでも、相手には重く届くことがある。

    逆に、相手の何気ない一言を、こちらが必要以上に気にしてしまうこともある。

    言葉というのは、なかなか面倒だ。

    ギターなら、少し音が外れても弾き直せる。

    会話は、そう簡単にはいかない。

    一度出してしまった言葉は、取り消したつもりでも相手の中に残ることがある。

    だからこそ、この曲で何度も繰り返される「約束する」という言葉が、少し切実に聞こえてくる。

    彼は完璧な人間ではない。

    言葉を間違えるし、声を荒らげることもある。

    それでも、相手との関係を諦めたくないのだろう。

    私は、そんな歌として聴いている。


    父親の庭の物置から生まれたヒット曲

    ここで、少し面白い話を。

    『The Promise』は、立派なレコーディングスタジオで生まれた曲ではない。

    クライヴ・ファリントンの父親の家にあった、庭の物置で作られた。

    しかも、かなり狭かったらしい。

    メンバー本人の話によると、キーボードを普通に置く場所がなく、壁に縦向きに取り付けていたという。

    ……いや、それは弾きにくくないのか。笑

    でも、当時は今ほど便利な環境ではなかった。

    機材を置く場所がなければ、何とか工夫する。

    壁が空いているなら、そこを使う。

    なかなかたくましい話である。

    マイケル・フロリアルがキーボードで曲のアイデアを弾いていたところへ、クライヴが入ってきて歌い始めた。

    その場で生まれたメロディーをカセットに録音したという。

    クライヴによれば、最初のヴァースとサビの歌詞は自分で書き、二番の歌詞はアンドリュー・マンが仕上げたそうだ。

    曲は、およそ二日で完成したという。

    しかも、アンドリュー・マンはもともと、マンチェスターで詩を朗読する活動をしていた人物だった。

    歌手とキーボーディストと詩人。

    その三人が、庭の小さな物置で作った曲が、やがてアメリカで大きなヒットになる。

    何とも面白い。

    私はこういう話を聞くと、少し嬉しくなる。

    いい機材があれば、もちろん助かる。

    広いスタジオも、使いやすい環境も、あるに越したことはない。

    でも、曲が生まれる瞬間というのは、案外そんなこととは関係がない。

    誰かが何気なく弾いた音に、別の誰かが歌を乗せる。

    「あれ、今のいいんじゃない?」

    そんなところから始まる曲もある。

    壁に取り付けられたキーボードから、あのイントロが生まれた。

    そう思うと、少し笑ってしまう。


    MVで歌っている人が、実は歌っていない

    もう一つ、なかなか面白い話がある。

    『The Promise』のミュージックビデオでは、アンドリュー・マンが、クライヴ・ファリントンの歌声に合わせて口を動かしている場面がある。

    つまり、映像で歌っているように見える人物と、実際にその部分を歌っている人物が違う。

    クライヴ本人も、後年のインタビューでそのことを認めている。

    しかも、なぜ二人ともその演出を受け入れたのか、本人にもよく分からないらしい。

    おいおい。笑

    そのせいで、ライブのときに混乱が起きたこともあったという。

    まあ、当然だろう。

    MVで歌っていた人と、ステージでそのパートを歌う人が違うのだから。

    ただ、私はこういう80年代のMVの、少々大らかなところも嫌いではない。

    映像として面白ければ、それでいい。

    必ずしも、演奏している姿を正確に再現する必要はない。

    今なら、いろいろ言われそうだけれど。

    それにしても、本人が理由を覚えていないというのが、一番おかしい。

    画像

    ギターが目立たない曲を、ギタリストが好きになる理由

    この曲を聴くと、まずシンセサイザーの音が印象に残る。

    少し硬い音で始まるイントロ。

    その後ろで、一定のリズムが続いている。

    そして、サビに入ると急に音が広がる。

    でも、すべての音が一斉に押し寄せてくるわけではない。

    一つひとつの音に、ちゃんと居場所がある。

    クライヴは当時のデモで、LinnDrumを使ってドラムを打ち込み、Roland SH-101でベースのパートを作っていたと語っている。

    さらに興味深いのは、完成版を作るときの話だ。

    プロデューサーのベン・ローガンは、当初、生のドラムやベース、ギター、オーケストラまで使って録音したという。

    ところが、メンバーたちは、どうもしっくりこなかった。

    音は豪華になった。

    でも、最初のデモにあった何かが消えてしまった。

    結局、元のドラムマシンとシーケンスされたベースを使う方向へ戻したそうだ。

    私は、この話がとても面白いと思う。

    録音の現場では、音を足せば必ず良くなるというわけではない。

    生の楽器にすれば、必ず温かくなるわけでもない。

    曲によっては、最初に作った簡単なデモの方が、ずっと気持ちよく聞こえることもある。

    何が違うのか。

    音色なのか、リズムの重心なのか。

    あるいは、最初に演奏したときの勢いなのか。

    そこを見つけるのが、なかなか難しい。

    私もギターを弾いていると、つい何かを足したくなることがある。

    もう一音。

    もう少し長く。

    もう少し目立つように。

    でも、こういう曲を聴くと、何も弾かない場所を残しておくことの大切さを思い出す。

    歌が気持ちよく聞こえているなら、ギターは少し後ろにいてもいい。

    むしろ、その方がいいこともある。

    昔より、そういうことを考える時間が増えた。

    もっとも、考えているうちに演奏する時間がなくなってしまっては困るのだけれど。笑


    英国よりも、アメリカで愛された曲

    『The Promise』は、英国のバンドが作った曲なのに、母国よりアメリカで大きな成功を収めた。

    アメリカのBillboard Hot 100では最高11位。

    ダンス・クラブ・チャートでは1位を獲得している。

    一方、英国のシングルチャートでは最高58位だった。

    この差は、なかなか興味深い。

    メンバーの話によると、曲がアメリカで広まるきっかけの一つは、サンフランシスコのラジオ局Live 105だった。

    マイケル・フロリアルの親戚が持っていったレコードが、そこでかけられるようになったという。

    今なら、SNSで突然曲が広まることもある。

    でも当時は、ラジオ局の誰かが気に入って何度もかけてくれることが、曲の運命を変えることもあった。

    私は、こういう話が好きだ。

    曲を書いた本人たちの知らないところで、誰かがその曲を気に入る。

    そして、別の街で、また別の誰かが聴いている。

    音楽は、作った人の手を離れてからも、勝手に歩いていく。

    『The Promise』は、そんな曲だったのかもしれない。

    そういえば、私にもこの曲にまつわる記憶がある。

    ロサンゼルスへ行くよりも前、90年代前半のグアム。
    当時あったディスコ『サンドキャッスル』で、この曲のユーロビート風のバージョンが延々と流れていた記憶がある。

    もう、嫌でも覚えてしまうくらいに。笑

    ちなみにサイパンは、なぜか私の渡航歴のカウントに入れていない。

    理由は単純で、自分で稼いだお金で行ったわけではないからだ。

    誰に決められたわけでもない、私だけの妙なルールである。笑

    それでも、あの頃のサイパンの空気と、この曲の記憶だけは、今もちゃんと残っている。


    16年後、映画の中でもう一度鳴った約束

    そして、この曲にはもう一つ、後日談がある。

    2004年の映画『ナポレオン・ダイナマイト』で、『The Promise』が使われたのだ。

    1988年のアメリカでのヒットから、約16年。

    映画の終盤で流れたこの曲は、新しい世代の耳にも届くことになった。

    クライヴ・ファリントンは後年、映画での使用について連絡が来たことが、再び音楽活動へ向かうきっかけの一つだったと語っている。

    私は、この話を知ったとき、少し嬉しくなった。

    一度ヒットした曲が、長い時間を経て、まったく違う作品の中で再び聴かれる。

    それは、曲を書いた本人たちにとっても不思議な経験だったのではないだろうか。

    若い頃に作った曲が、自分たちの年齢を追い越していく。

    しかも、聴いている人の中には、その曲が最初にヒットした頃を知らない人もいる。

    それでも、何かを感じてくれる。

    もちろん、1980年代の音はちゃんと残っている。

    あのシンセサイザーを聴けば、当時の空気を思い出す人もいるだろう。

    でも、そこに歌われているのは、時代が変わってもあまり変わらない、人間の不器用さなのかもしれない。


    約束よりも、その前の沈黙が気になる

    『The Promise』というタイトルを見れば、誰かに何かを誓う歌なのだと思う。

    実際、そのとおりだ。

    でも、今の私が気になるのは、約束そのものよりも、その前にある迷いだ。

    相手に伝えたいことがある。

    言葉を探している。

    何度も言い直している。

    それでも、うまく伝わっている気がしない。

    若い頃なら、もっと勢いよく言えばいいのに、と思ったかもしれない。

    でも今は、言葉が出てこない時間にも、ちゃんと気持ちがあることを知っている。

    仕事で翻訳をしていても、同じようなことがある。

    辞書を引けば、意味は分かる。

    文法も間違っていない。

    それなのに、どうしてもその人の気持ちに合わない訳になることがある。

    言葉として正しくても、何かが違う。

    そんなときは、少し考える。

    この人は、どんな顔で言ったのだろう。

    本当は、何を伝えたかったのだろう。

    『The Promise』の主人公も、そんなふうに言葉を探しているのかもしれない。

    相手にとって必要な言葉を、まだ見つけられない。

    でも、伝えることを諦めたくない。

    だから、何度も約束する。

    この曲が生まれたのは、父親の庭にあった小さな物置だった。

    壁にはキーボードが取り付けられ、狭い部屋の中で三人が曲を作っていた。

    そんな場所から生まれた歌が、何十年も経って、今もどこかで鳴っている。

    私も、まだまだ言葉を探すことがある。

    たぶん、これからもあるだろう。

    ただ、昔よりは少しだけ、急いで答えを出さなくてもいいと思えるようになった。

    あのサビを聴いていると、主人公は今も言葉を探しているように聞こえる。

    約束だけが、先に口をついて出てしまったように。

    画像
    『When in Rome』(1988年)



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