🎵『Janie’s Got a Gun』Aerosmith(1989)

    クレジット

    曲名: Janie's Got a Gun
    アーティスト: Aerosmith
    発表: 1989年
    作詞: Steven Tyler
    作曲: Steven Tyler / Tom Hamilton
    収録アルバム: 『Pump』(1989年)
    Producer: Bruce Fairbairn
    Label: Geffen Records

    『Pump』
    楽天 / Amazon / Yahoo / メルカリ


    今でも、練習で弾いている曲

    ギターを練習していると、何となく手が伸びてしまう曲がある。

    新しいフレーズを覚えたいわけでもない。

    難しいソロを攻略したいわけでもない。

    ただ、弾きたくなる。

    Aerosmithの『Janie's Got a Gun』は、私にとってそんな曲の一つだ。

    エアロスミスの中では『Angel』と並んで一番好きな曲で、今でも練習のときによく演奏している。

    ただ、この二曲はずいぶん違う。

    『Angel』には、どうしようもなく誰かを求める気持ちがある。

    一方の『Janie's Got a Gun』には、もっと暗く、簡単には言葉にできない感情がある。

    それなのに、どちらも好きなのだから不思議だ。

    特に『Janie's Got a Gun』は、演奏するたびに少し違ったところが気になる。

    ギターの音を追っている日もあれば、ベースの動きに耳が向く日もある。

    そして、Steven Tylerの声が妙に重く聞こえる日もある。

    この曲には、派手なロックナンバーとは違う緊張感がある。

    大きな音を鳴らしているのに、どこか静かだ。

    その理由を考えると、どうしても歌詞の中にいる一人の少女のところへ戻ってしまう。

    ジェニー。

    彼女は、なぜ銃を手にしなければならなかったのだろう。


    1989年、復活したエアロスミスが歌ったもの

    1980年代の後半、Aerosmithは再び大きな成功を手にしていた。

    1970年代に『Toys in the Attic』(1975年)や『Rocks』(1976年)で確固たる地位を築いた彼らだったが、その後はメンバー間の問題や薬物依存などによって活動が不安定になっていた。

    Joe PerryとBrad Whitfordがバンドに復帰し、1987年には『Permanent Vacation』を発表。

    『Dude (Looks Like a Lady)』『Rag Doll』『Angel』などがヒットし、彼らは再びアメリカの音楽シーンの中心へ戻ってきた。

    そして1989年。

    アルバム『Pump』が発売される。

    『Love in an Elevator』『What It Takes』『The Other Side』など、今でもライブでおなじみの曲が並ぶ作品だ。

    音は力強く、演奏には勢いがある。

    かつての荒々しさを残しながら、80年代後半らしい洗練されたサウンドも取り入れている。

    ところが、その中に『Janie's Got a Gun』がある。

    この曲だけ、少し空気が違う。

    『Love in an Elevator』のような陽気さはない。

    『Angel』のような分かりやすいラブソングでもない。

    父親から性的虐待を受けた少女が、ついには父親を銃で撃つ。

    そんな物語を、彼らは歌っていた。

    しかも、この曲は全米Billboard Hot 100で4位を記録し、1990年のグラミー賞ではBest Rock Performance by a Duo or Group with Vocalを受賞した。

    1989年のアメリカで、これほど重い題材を扱った曲が大きなヒットになった。

    それは、決して当たり前のことではなかったと思う。


    Steven Tylerは、なぜジェニーを歌ったのか

    この曲が生まれた経緯について、Steven Tylerは何度かインタビューで語っている。

    興味深いのは、最初から児童虐待をテーマにした曲を書こうとしていたわけではなかったことだ。

    1994年の『Rolling Stone』のインタビューで、彼は自宅の地下室で何気なくキーボードを弾いていたときに、Janieという少女が銃を持っているというフレーズが浮かんだと話している。

    その瞬間、鳥肌が立ったという。

    ただし、そこからすぐに物語が完成したわけではない。

    彼自身、ジェニーとは誰なのか、なぜ銃を持っているのか、何をしようとしているのか、まだ分からなかった。

    曲の中心になる言葉だけが先に現れ、その理由をあとから探していったのだ。

    やがて彼は、アメリカの銃による死亡事件を扱った『TIME』誌の記事を目にする。

    さらに、親による児童虐待の実態を知り、その問題に強い衝撃を受けた。

    1980年代、薬物依存からの回復に取り組んでいた時期にも、虐待を経験した女性たちの話に触れていた。

    彼は、親から傷つけられた子どもたちの苦しみが十分に顧みられていないことに怒りを感じたと語っている。

    その怒りが、ジェニーという少女の物語につながっていった。

    歌詞が完成するまでには、約9か月を要したとされる。

    私は、この制作過程がとても気になる。

    最初に浮かんだのは、たった一つの奇妙なフレーズだった。

    そこから現実の社会問題と向き合い、少しずつ物語が形になっていった。

    つまり、最初から答えを持っていたわけではない。

    曲を書きながら、自分自身も何かを知っていったのだろう。

    ミュージシャンとして、こういう作り方には少し共感する。

    演奏しているうちに、最初は考えてもいなかった感情が出てくることがある。

    曲というのは、ときどき作っている本人より先に、何かを知っているような気がする。


    誰も信じてくれなかった少女

    この曲は、すでに何かが起きてしまったところから始まる。

    なぜそうなったのかを説明する前に、まず結果を突きつける。

    Janie got a gun
    ジェニーは銃を手に入れた
    Whole world's come undone
    世界のすべてが、崩れてしまった

    ここで使われている come undone という表現。

    単に何かが壊れたというより、それまで何とか保たれていたものが、
    ほどけて崩れてしまったような響きがある。

    しかも、崩れたのは何か一つではない。

    彼女にとっての世界そのものだった。

    歌が進むにつれて、その理由が少しずつ明らかになっていく。

    彼女を傷つけたのは、本来なら守ってくれるはずの父親だった。

    子どもにとって、家庭は最初に世界を知る場所でもある。

    そこで信頼が壊れてしまったら、何を頼りにすればいいのだろう。

    そして、物語の後半には、彼女の孤独を表す短い言葉が出てくる。

    'Cause nobody believes me
    だって、誰も私のことを信じてくれないから

    私は、この言葉が一番つらい。

    虐待を受けたという事実そのものも、もちろん深刻だ。

    しかし、その苦しみを誰にも信じてもらえないということは、さらに人を孤立させる。

    歌詞は、ジェニーが誰に何を話したのかを細かく説明していない。

    何度助けを求めたのか。

    そもそも、誰かに打ち明けることができたのか。

    そこまでは描かれていない。

    ただ、「誰も信じてくれない」という彼女の言葉だけが残されている。

    私は、銃を手にしたという結果よりも、そこに至るまでの時間が気になってしまう。

    彼女が傷ついていたことに、周囲の誰かは気づいていたのだろうか。

    もし気づいていたのなら、なぜ何も変わらなかったのだろう。

    もちろん、これは歌詞に書かれていない部分への私の想像だ。

    それでも、あの短い言葉を聴くたびに、考えずにはいられない。

    そして曲の途中では、苦しみから逃げるように呼びかける声が繰り返される。

    逃げて。

    その苦しみから離れて。

    この部分のSteven Tylerの歌い方が、私は好きだ。

    普段の彼なら、もっと派手に声を張り上げてもおかしくない。

    しかし、この曲では、叫びと祈りの間を行き来しているように聴こえる。

    誰かを責めているのか。

    ジェニーに呼びかけているのか。

    それとも、もう取り返しのつかない出来事を前に、ただ声を出しているのか。

    はっきりとは分からない。

    ただ、歌詞の内容を知ってから聴くと、この繰り返しが単なるサビの盛り上がりには聞こえなくなる。

    逃げろ。

    苦しみから離れろ。

    でも、どこへ逃げればいいのだろう。

    ジェニーは父親を撃った。

    しかし、それで彼女が受けた傷まで消えるわけではない。

    この曲は、彼女の行動を単純に正当化する歌でも、分かりやすい救いを用意した歌でもないのだと思う。

    Steven Tylerは、ジェニーを簡単には救ってくれない。

    彼女がその後どうなったのかも、歌詞は語らない。

    ただ、誰も信じてくれなかった少女の声だけが、あの重たいリズムの中に残っている。


    ギターが前に出すぎない理由

    さて、ここからは少し演奏の話を。

    『Janie's Got a Gun』は、今でも練習のときによく弾く曲だ。

    Aerosmithといえば、Joe PerryとBrad Whitfordのツインギター。

    『Walk This Way』や『Back in the Saddle』のように、ギターのリフが曲を引っ張っていくイメージが強い。

    ところが、この曲は少し違う。

    もちろんギターは重要だ。

    しかし、曲の中心にあるのは、むしろリズムと空間の作り方だと思う。

    Tom Hamiltonのベースが作る、あの独特の動き。

    Joey Kramerのドラムが生み出す重さ。

    そして、その間に置かれるギター。

    ギターが全部を説明しようとしていない。

    そこがいい。

    弾いていると分かるのだが、この曲は音を増やせば格好よくなるというものではない。

    むしろ、余計な音を入れると、あの張りつめた感じが薄くなってしまう。

    Joe Perryのギターも、必要なところでは強く前に出るが、それ以外の部分では曲の空気を壊さない。

    Brad Whitfordのギターとの重なりも、派手さより曲全体の重心を支える役割が大きい。

    若い頃は、こういう曲を弾くと、どうしてもギターの存在感を出したくなったものだ。

    もう少し歪ませたい。

    もう少し音を伸ばしたい。

    少しだけ余計なフレーズを入れたい。

    でも、今はそうでもない。

    弾かない場所にも音がある。

    そういうことが、以前より少し分かるようになった。

    もちろん、分かったからといって、毎回うまく弾けるわけではないのだが。笑


    静かな始まりに隠された不安

    アルバム『Pump』では、この曲の前に『Water Song』という短い導入部分が置かれている。

    ここには、Randy Raine-Reuschによる特殊な楽器の音が使われている。

    グラスハーモニカやウィンドゴングなどが生み出す、どこか現実離れした響きだ。

    その音が消えかけたところから、『Janie's Got a Gun』の世界が始まる。

    私は、この入り方がとても好きだ。

    普通のハードロックなら、いきなり強烈なギターリフで始まってもおかしくない。

    でも、この曲は違う。

    何かが起きる前の、不安な空気がある。

    部屋の中に誰かがいるような気配。

    何も見えないのに、落ち着かない。

    そして、リズムが動き始める。

    この曲は、音の大きさだけで怖さを作っていない。

    むしろ、何も鳴っていない場所や、音が消えかける瞬間に、不安が残る。

    ギタリストとしては、こういう曲に惹かれる。

    派手な演奏技術とは別のところに、音楽の深さがあるからだ。


    たった一言を変えなければならなかった

    この曲には、歌詞の変更に関する重要な背景がある。

    もともとSteven Tylerが書いた歌詞には、父親による性的暴行を、もっと直接的に表現した部分があった。

    しかし、レコード会社側から、ラジオで放送されることを考えて表現を変更するよう求められた。

    Geffen RecordsのJohn Kalodnerが、その判断に関わったことが知られている。

    また、ジェニーが父親を撃つ場面についても、ラジオ向けのバージョンでは表現が変更されている。

    1989年当時、児童への性的虐待や近親姦を、これほど直接的に扱うロックソングは決して一般的ではなかった。

    まして、Aerosmithのような大きな商業的成功を収めているバンドが歌うとなれば、放送する側も慎重になったのだろう。

    ただ、ここには難しい問題がある。

    言葉を柔らかくすることで、多くの人に届くようになる。

    一方で、言葉を柔らかくしすぎると、本来伝えたかった痛みが見えにくくなることもある。

    私は翻訳の仕事をしていても、こういうことを考える。

    英語の強い言葉を、そのまま日本語にすればいいとは限らない。

    しかし、読みやすくするために弱めすぎると、書いた人の感情まで変わってしまう。

    どこまで残すのか。

    どこまで言い換えるのか。

    言葉にも、音楽と同じように間合いがある。

    『Janie's Got a Gun』の歌詞を読むと、Steven Tylerが伝えたかった怒りを、できるだけそのまま受け止めたいと思う。

    ただし、怒りだけを大きくしてしまうと、今度はジェニーの小さな声が聞こえなくなる。

    そこも忘れたくない。


    David Fincherが描いた、逃げ場のない映像

    この曲のミュージックビデオを監督したのは、David Fincherだ。

    後に『セブン』(1995年)、『ファイト・クラブ』(1999年)、『ゾディアック』(2007年)などを手がける映画監督である。

    1989年当時の彼は、ミュージックビデオやCMの分野で活動していた。

    『Janie's Got a Gun』の映像には、すでに彼らしい暗さと緊張感がある。

    少女ジェニーを演じたのはKristin Dattilo。

    母親役にはLesley Ann Warren。

    父親役にはNicholas Guestが出演している。

    映像は、単純にバンドの演奏を見せるだけのものではない。

    事件を追う警察官の姿と、ジェニーの記憶のような場面が交錯する。

    暗い部屋。

    不安そうな表情。

    断片的に現れる過去。

    何が起きたのかを、すべて説明するわけではない。

    むしろ、見えない部分があるからこそ怖い。

    私は、この映像が曲の雰囲気によく合っていると思う。

    ジェニーが受けた苦しみを、見世物のように描いていない。

    それでも、彼女が置かれていた状況の異常さは伝わってくる。

    そして、バンドの演奏シーンに戻ったとき、Steven Tylerの歌が違った意味を持って聞こえる。

    彼は、単に物語を語っているのではない。

    誰かが見過ごしてきたものを、声にしているように感じる。


    『Angel』と、この曲が好きな理由

    Aerosmithには好きな曲がたくさんある。

    『Dream On』も好きだし、『What It Takes』も好きだ。

    Joe Perryのギターを聴きたいなら、ほかにもいくらでも曲がある。

    それでも、私の中で『Angel』と『Janie's Got a Gun』は少し特別だ。

    『Angel』は、誰かにそばにいてほしいという気持ちを、あれほど大きな音で歌っている。

    一方、『Janie's Got a Gun』は、誰かに助けてほしかったはずの少女の物語だ。

    もちろん、二つの曲を同じものとして語るつもりはない。

    恋愛の寂しさと、虐待によって受けた傷を同列に扱うことはできない。

    ただ、どちらにも、人間の弱い部分がある。

    Steven Tylerという人は、あれほど派手なステージパフォーマンスをする一方で、こういう弱さを歌うときにも独特の説得力がある。

    私はそこに惹かれるのかもしれない。

    『Angel』では、声を大きく張り上げるところに切実さがある。

    『Janie's Got a Gun』では、むしろ声を抑えた部分に何かが残る。

    同じ歌手なのに、こんなにも違う。

    そして、どちらの曲も今でも弾きたくなる。

    好きな曲というのは、必ずしも気持ちのいい曲ばかりではないのだろう。


    ジェニーの名前は、曲の外へ出ていった

    この曲には、もう一つ書いておきたいことがある。

    1989年に発表された『Janie's Got a Gun』は、長い年月を経て、現実の支援活動へとつながっていった。

    2015年、Steven Tylerは虐待を経験した少女や若い女性を支援するため、Janie's Fundという基金を立ち上げた。

    これは、非営利団体Youth Villagesと連携して始まった取り組みである。

    トラウマからの回復に向けた支援や、安心して暮らせる環境づくりなどを目的としている。

    Tylerは、この曲を発表してから長い間、ファンから数多くの手紙を受け取ってきたという。

    そこには、自分自身が虐待を経験したことや、この曲が自分にとってどのような意味を持ったかが書かれていた。

    彼は、そうした声に触れ続ける中で、実際に何かできることはないかと考えるようになった。

    これは、音楽が社会を変えたという単純な美談ではないと思う。

    一曲の歌で、虐待がなくなるわけではない。

    傷ついた人の人生が、すぐに元に戻るわけでもない。

    ただ、1989年に書かれた架空の少女の名前が、何十年もあとになって、現実の誰かを支える活動の名前になった。

    そのことには、静かな重みがある。

    Steven Tyler自身も、若い頃から決して模範的な人生を歩んできた人ではない。

    だからといって、彼の人生をこの活動だけで評価することもできない。

    それでも、曲の中で生まれた名前が、現実の支援へつながったという事実は残る。


    それでも、私はこの曲を弾く

    『Janie's Got a Gun』を練習で弾くとき、いつも歌詞のことばかり考えているわけではない。

    今日はギターの音が少し硬いな、とか。

    リズムが前に行きすぎているな、とか。

    そんなことを考えながら弾いている日もある。

    むしろ、その方が多いかもしれない。

    ただ、曲を知れば知るほど、以前とは違うところに耳が向くようになった。

    特に、音が少なくなる部分。

    Steven Tylerの声だけが、少し前に出てくる瞬間。

    そして、Joe Perryのギターが曲の空気を変えるところ。

    昔は、格好いいフレーズを弾けるようになることが楽しかった。

    今は、そのフレーズがなぜそこにあるのかを考えることが増えた。

    それが年齢のせいなのか、長くギターを弾いてきたせいなのかは分からない。

    たぶん、両方なのだろう。

    『Angel』と並んで、今でも一番好きなAerosmithの曲。

    これからも、きっと何度も弾くのだろう。

    上手く弾けた日も、そうでない日も。

    ギターを片付けたあと、あの低いベースの音が、しばらく頭の中に残っていることがある。

    そして、Steven Tylerの声が聞こえてくる。

    私はもう一度、ギターをケースから出そうかと思う。

    いや、今日はもう片付けたばかりだ。

    明日にしよう。

    たぶん明日も、同じ曲を弾いている。

    画像
    『Pump』(1989年)


    紹介した音源・CDを探す

    ※この欄にはアフィリエイトリンクが含まれます。価格・在庫はリンク先でご確認ください。

    検索対象:Pump / Aerosmith

    楽天ブックス

    このサイトを応援する

    SouthWindMusicは個人で運営しています。 サイト運営維持のため、ご支援いただけると嬉しいです。

    PayPalで応援する

    ※金額は自由にご入力いただけます

    コメントする