🎵『More Than a Feeling』Boston(1976)

    楽曲クレジット

    • 曲名: More Than a Feeling

    • アーティスト: Boston

    • 発表: 1976年

    • 作詞・作曲: Tom Scholz

    • 収録アルバム: 『Boston』(1976年)

    • Producer: John Boylan / Tom Scholz

    • Label: Epic Records

    • ヴォーカル: Brad Delp

    • ギター/ベース: Tom Scholz

    • ドラム: Sib Hashian

    『Boston』
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    サンタモニカの夕陽と、あの十二弦ギター

    1998年、L.A.に暮らしていた頃のこと。

    サンタモニカ・ピアで、太平洋に沈んでいく夕陽を眺めながら、
    Bostonの『More Than a Feeling』を口ずさんだことがある。

    別に誰かに聴かせるつもりでもなかった。

    ただ、海を見ていたら、自然とあのメロディーが出てきた。

    夕陽に照らされた海と、少しずつ暗くなっていく空。

    あのとき何を考えていたのか、今ではよく覚えていない。

    それなのに、そこでこの曲を口ずさんだことは覚えている。

    不思議なものだ。

    『More Than a Feeling』は1976年の曲だから、その頃でもすでに20年以上前の音楽だった。

    そして2026年の今では、発売からちょうど50年になる。

    私自身も、あの頃から随分歳を取った。

    サンタモニカ・ピアの夕陽は、今でも見られるだろう。

    でも、あの場所であの曲を口ずさんでいた頃の自分には、もう会えない。

    最近、この曲を聴くと、そんなことを考える。

    面白いのは、『More Than a Feeling』そのものが、
    音楽によって昔の誰かや、過ぎ去った時間を思い出す歌だということだ。

    あの頃の私は、歌詞の中のMarianneを思い浮かべながら歌っていたのかもしれない。

    ところが今は、その曲を口ずさんでいた自分自身が、記憶の中にいる。

    Tom Scholzが書いた歌の中の出来事を、いつの間にか自分でも経験しているわけだ。

    あの十二弦ギターのイントロを聴くと、今でも太平洋に沈む夕陽が浮かぶ。

    曲を聴いているのに、思い出しているのは音楽だけではない。

    あの頃のL.A.の空気や、そこで暮らしていた自分のことまで、少しずつ戻ってくる。

    そんな曲が、何曲かある。

    『More Than a Feeling』は、私にとってその一曲なのだ。


    Tom Scholzという、なかなか諦めない男

    Bostonのデビューアルバム『Boston』は、1976年に発売された。

    『More Than a Feeling』は、その一曲目に収録されている。

    作詞・作曲はTom Scholz。

    彼はMITで学び、Polaroid社でエンジニアとして働いていた人物だ。

    仕事をしながら、自宅の地下室に録音環境を作り、曲を書き、演奏し、音を重ねていた。

    何度もレコード会社にデモを送ったものの、なかなか契約には結びつかなかった。

    それでも制作を続けた。

    『More Than a Feeling』は、そんな時期の終盤に生まれた曲である。

    Tom自身、これが最後のデモになるかもしれないと思っていたという。

    結果として、その音楽がEpic Recordsとの契約につながり、Bostonは大きな成功を収めることになる。

    後から見れば、成功へ向かう物語として綺麗にまとまる。

    でも、当時のTomには、そんな結末は分からなかったはずだ。

    何度も断られながら、地下室で音を作り続ける。

    私は、こちらの方が気になる。

    エンジニアとしての知識を使い、頭の中にある音を何とか形にしようとする。

    納得できなければ、また録り直す。

    ギターの音を少し変える。

    重ね方を考える。

    録音して聴き返すと、思っていた音と違う。

    これは、私にも覚えがある。

    アレンジをしていると、頭の中では綺麗に鳴っているのに、実際に録音すると妙に窮屈になることがある。

    ギターを一本増やしたら良くなると思ったのに、むしろ邪魔になる。

    そこで一本減らしてみると、急に歌が前へ出てくる。

    何とも面倒な作業だ。

    しかも、こういうときに限って時間を忘れる。

    気づけば、かなり長い間、同じ数小節を聴いていたりする。

    昔はそのまま朝まで作業できた。

    今は翌日の身体が、きちんと抗議してくる。笑

    Tomの徹底した音作りと同じものを自分がやっているなどとは思わない。

    ただ、頭の中にある音を諦めきれない気持ちは、少し分かる。

    あの巨大なBostonサウンドが、一人の男の地下室から始まった。

    その事実だけでも、ギターを弾く人間にはなかなか興味深い話だ。


    太陽の見えない朝に、音楽をかけた

    I looked out this morning and the sun was gone
    今朝、外を見たら、太陽の姿がなかった
    Turned on some music to start my day
    一日を始めようと、音楽をかけた
    I lost myself in a familiar song
    聴き慣れた曲に、いつの間にか心を持っていかれて
    I closed my eyes and I slipped away
    目を閉じると、私はもう、今いる場所にはいなかった

    歌は、太陽の見えない朝から始まる。

    それが曇り空だったのか、まだ薄暗い時間だったのかは分からない。

    語り手の気持ちが沈んでいた、とも書かれていない。

    ただ、外を見たら太陽がなかった。

    そして音楽をかけた。

    大げさな出来事は何も起きていない。

    この何でもない始まり方が、実に自然だ。

    音楽を聴く理由なんて、いつも特別なものではない。

    朝だからかける。

    車に乗ったからかける。

    静かすぎる部屋が嫌だから、何となく再生する。

    ところが、その何となく選んだ曲に、思いがけず足を取られることがある。

    I lost myself in a familiar song。

    聴き慣れた曲の中で、自分を見失ってしまう。

    そして I slipped away。

    この slip away は、力を入れてどこかへ向かう感じではない。

    気づかないうちに、すっと離れていく。

    日本語でも「いつの間にか」という言葉が似合う。

    自分から過去を探しに行ったのではない。

    音楽を聴いているうちに、今いる場所から少し離れてしまった。

    それだけのことだ。

    でも、実際にそういう経験をした人なら、この四行の意味はよく分かると思う。

    私にも、昔の友人の顔がなかなか思い出せないことがある。

    名前も覚えているし、どこで知り合ったのかも分かっている。

    それなのに、顔だけがぼんやりしている。

    ところが、一緒に聴いていた曲をかけると、突然、笑っている顔が浮かんでくる。

    不思議なものだ。

    写真を見ても戻らなかった記憶が、音だけで戻ってくる。


    Marianneは、失恋相手だったのか

    It's more than a feeling
    これは、ただ懐かしいという気持ちだけじゃない
    When I hear that old song they used to play
    昔よく流れていた、あの曲を聴くと
    And I begin dreaming
    私はまた、あの頃の夢を見始める
    'Til I see Marianne walk away
    そしてMarianneが、遠ざかっていく姿を見てしまう

    Marianne。

    この名前を、私は長い間、昔の恋人の名前だと思っていた。

    歌詞の流れからすれば、そう受け取っても不思議ではない。

    昔の曲を聴く。

    誰かを思い出す。

    そして、その人が歩き去っていく。

    いかにも失恋の記憶のように聞こえる。

    ところが、Tom Scholz本人の説明を読むと、少し違う景色が見えてくる。

    Marianneという人物は実在した。

    Tomより年上の従姉妹で、子どもの頃の彼が憧れていた女性だったという。

    ただし、この曲が彼女との実際の恋愛や別れを、そのまま描いたものではない。

    Tomは、音楽を聴くことで過去の誰かを思い出すという、想像上の出来事としてこの曲を書いたと説明している。

    ここを知ってから、私はMarianneという名前の聞こえ方が少し変わった。

    歌の中で歩き去っていく彼女は、必ずしも現実のMarianneその人ではない。

    Tomの記憶に残っていた名前が、歌の中で別の役割を持つようになった。

    そんなふうに考えられる。

    だからこそ、聴いている側にも入り込む余地があるのだろう。

    Marianneが誰なのか、私たちは知らない。

    けれど、自分の中に似た存在を見つけることはできる。

    昔好きだった人。

    長く会っていない友人。

    もう声を聞くことのできない家族。

    あるいは、あの頃の自分自身。

    曲を聴いていて、急に誰かの顔が浮かぶ。

    でも、その人が今どこで何をしているのかは分からない。

    それでも、あの頃の姿だけは妙にはっきりしている。

    そういう記憶を、私はいくつも持っている。


    顔を忘れることと、その人を忘れること

    So many people have come and gone
    これまで、どれだけの人が私の人生を通り過ぎただろう
    Their faces fade as the years go by
    年月とともに、その顔さえ少しずつ薄れていく
    Yet I still recall as I wander on
    それでも、こうして歩き続けていると、ふと思い出す
    As clear as the sun in the summer sky
    夏空の太陽みたいに、驚くほどはっきりと

    人の顔は、少しずつ記憶から薄れていく。

    あまり認めたくないことだけれど、実際にそうだ。

    昔は、もう少し簡単に思い出せた気がする。

    それに、若い頃は誰かと会えなくなることを、今ほど深刻には考えていなかった。

    連絡しようと思えばできる。

    またどこかで会える。

    そんなふうに思っていた。

    ところが、住む国が変わり、仕事が変わり、使っていた電話番号まで変わっていく。

    気づけば、何年も話していない人がいる。

    顔を思い出そうとしても、細かいところが曖昧になっている。

    それなのに、その人と過ごしたある一日だけは、妙にはっきり残っていることがある。

    駅で別れたときの後ろ姿。

    車の助手席で笑っていた横顔。

    部屋の窓から差し込んでいた夕方の光。

    顔の輪郭は曖昧なのに、そういうものは覚えている。

    この歌詞も、同じようなことを言っているように聞こえる。

    顔は年月とともに薄れていく。

    けれど、記憶は夏空の太陽のようにはっきりしている。

    少し矛盾しているようで、そうでもない。

    人の顔を正確に覚えていることと、その人が自分にとってどんな存在だったかを覚えていることは、別なのだろう。

    私の場合、昔の友人を思い出すとき、顔より先に声が浮かぶことがある。

    話し方の癖や、笑い声。

    名前を呼ばれたときの、あの感じ。

    翻訳や通訳の仕事をしているせいか、言葉の響きが記憶に残ることも多い。

    もちろん、何でも覚えているわけではない。

    昨日の昼食を思い出す方が難しい日だってある。笑

    それでも、何十年も前の誰かの声が、急に耳の奥で鳴ることがある。

    そんなとき、忘れるというのは、全部が消えてしまうことではないのだと思う。


    十二弦ギターが開けた、小さな入口

    『More Than a Feeling』のイントロは、Bostonの音作りを語るうえでも興味深い。

    あのきらびやかなアコースティックギターには、Brad Delpが所有していたYamahaの十二弦ギターが使われた。

    Tom Scholzは、比較的手頃な価格の楽器とシンプルなダイナミックマイクで、あの印象的な音を録音している。

    機材の値段と、録音された音の良さは、必ずしも比例しない。

    これは本当にそうだと思う。

    高価なギターを使えば、もちろん良い音が出ることはある。

    でも、曲に合うかどうかは別の話だ。

    十二弦ギターには、六弦ギターとは違う独特の広がりがある。

    弦が対になっているため、音が少し揺れながら重なっていく。

    あのイントロでは、その響きが実に効果的だ。

    大きな音ではない。

    むしろ、そっと始まる。

    でも、最初の数秒で曲の空気が決まってしまう。

    あの音を聴くと、私は昔のアルバムを一枚ずつめくっているような気分になる。

    まだ何も思い出していない。

    でも、何かが出てきそうな気がする。

    そんな入口だ。

    そしてサビに入ると、景色が一気に広がる。

    厚く重ねられたエレクトリックギター。

    高く伸びるBrad Delpの声。

    低いところでしっかり支えるベース。

    音数は増えるのに、不思議と窮屈にならない。

    ここには、Tom Scholzの音の置き方がよく表れている。

    ギターを重ねること自体は、それほど難しくない。

    難しいのは、重ねた音を全部聴かせようとしないことだ。

    一つひとつの音に役割があり、前へ出るものと、少し後ろへ引くものがある。

    その間を歌が通っていく。

    Bostonの音は大きい。

    けれど、歌の居場所がなくならない。

    Bradの声が伸びるところでは、ギターがちゃんと景色を広げている。

    このバランスは、何度聴いても感心する。

    それにしても、こんなに大きなサウンドで、昔の誰かを思い出す歌を作ってしまうのだから、Tom Scholzという人は面白い。

    普通なら、もっと静かな曲にしそうなものだ。

    でも、記憶というのは、必ずしも静かに戻ってくるわけではない。

    突然、目の前いっぱいに広がることもある。

    あのサビの大きさは、そういう感覚にも似ている。


    Brad Delpの声を、今も聴いている

    Brad Delpは2007年に亡くなった。

    『More Than a Feeling』を聴くと、その事実がふと頭をよぎることがある。

    ただ、この曲を彼への追悼の歌として聴いているわけではない。

    もともと、過ぎ去った人や時間を思い出す曲なのだ。

    そこに、歌っていた本人がもういないという現実が重なる。

    それだけのことなのだけれど、少し寂しい。

    Bradの声は、本当に独特だった。

    高い音まで伸びていくのに、耳に刺さらない。

    強く歌っていても、どこか柔らかさがある。

    声を張り上げるというより、自然に上へ抜けていくように聞こえる。

    もちろん、あの歌唱を自然に聞かせるには、相当な技術が必要だったはずだ。

    でも、聴いている側にその苦労を感じさせない。

    そこが素晴らしい。

    私はギターを弾く人間なので、つい演奏の方へ耳が向く。

    それでもBostonでは、Bradの声に持っていかれる瞬間が何度もある。

    ギターがどれほど厚く鳴っていても、彼の声はその上を通っていく。

    今でも、あの声を聴けば1976年の録音に戻れる。

    こちらは歳を取った。

    身体も変わったし、演奏の仕方も少しずつ変わってきた。

    けれど、レコードの中のBradは、あの頃のまま歌っている。

    録音とはそういうものだ。

    分かっている。

    それでも、たまに妙な気持ちになる。

    もう会えない人の声が、今いる部屋の中で普通に鳴っている。

    しかも、こちらの都合に合わせて、何度でも歌ってくれる。

    ありがたいことなのだけれど、少し不思議でもある。


    音楽の中に隠れるということ

    When I'm tired and thinking cold
    疲れ果てて、心まで冷たくなってしまったとき
    I hide in my music, forget the day
    私は音楽の中に身を隠して、今日という日を忘れる
    And dream of a girl I used to know
    そして、昔知っていたあの人の夢を見る
    I closed my eyes and she slipped away
    目を閉じた途端、彼女はまた、私の手の届かないところへ行ってしまう

    I hide in my music。

    音楽の中に隠れる。

    この hide を、私は単純な「逃避」とは受け取りたくない。

    疲れたとき、人は少し静かな場所が欲しくなる。

    誰とも話さずに済む場所。

    何かを求められずに済む時間。

    語り手にとって、それが音楽だったのだろう。

    音楽を仕事にしていると、こういう感覚が少し複雑になる。

    仕事中も音楽。

    仕事が終わっても音楽。

    一日中ギターを弾いていたのに、帰ってからまた誰かのギターを聴いている。

    自分でも、ほかにやることはないのかと思う。笑

    でも、仕事で向き合う音楽と、疲れたときに聴く音楽は、同じようで違う。

    仕事では、音を判断しなければならない。

    このフレーズでいいのか。

    歌に合っているか。

    リズムは気持ちよく流れているか。

    そんなことを考える。

    一方、疲れた夜に聴く音楽には、何も求めない。

    ただ流しておく。

    その中に、少しだけ身を置く。

    Hide in my music という言葉には、そんな感覚がある。

    そして、この三番には、もうひとつ気になるところがある。

    冒頭では、語り手自身が slipped away していた。

    目を閉じて、現実から離れていった。

    ところが三番では、離れていくのは彼女の方だ。

    同じ slipped away でも、動いている人が違う。

    最初は、自分が今いる場所から離れた。

    最後は、思い出の中にいた彼女が離れていく。

    この違いは、意訳するときにも残しておきたい。

    語り手は音楽の中へ隠れた。

    そこで昔の彼女に会えた。

    けれど、彼女はまた行ってしまう。

    音楽は、忘れていた人を思い出させてくれる。

    でも、その人をずっと引き留めておくことまではできない。

    そこが、少し切ない。


    懐かしいだけでは済まない記憶

    歳を重ねると、懐かしいという気持ちにも、いろいろな種類があることに気づく。

    楽しかった頃を思い出して、素直に笑えることもある。

    でも、必ずしもそういう記憶ばかりではない。

    忙しかった頃。

    余裕がなかった頃。

    何かを手に入れようとして、いつも少し焦っていた頃。

    そんな時間も、曲と一緒に戻ってくる。

    昔の自分を思い出して、少し恥ずかしくなることもある。

    今なら、もう少しうまくできたのに。

    あんな言い方をしなければよかった。

    もう少し周りを見ていればよかった。

    そう思うこともある。

    ただ、今の自分が当時の自分より何でも分かっているかといえば、そうでもない。

    あの頃には、あの頃なりの事情があった。

    必死だったこともある。

    余裕がなかったこともある。

    それを今になって全部否定するのも、少し違う気がする。

    私は、若い頃の自分を以前ほど厳しく見なくなった。

    かといって、全部を美しい思い出にするつもりもない。

    嫌だったことは、やっぱり嫌だった。

    失敗したことは、今でも少し恥ずかしい。

    それでも、あの時間を過ごしたから、今ここにいる。

    そんな当たり前のことを、音楽を聴きながら思い出すことがある。

    Marianneという名前も、聴く人によって違う顔になるのだろう。

    私にとっては、昔の友人かもしれない。

    遠い街で過ごした時間かもしれない。

    あるいは、今ではもう会えない、あの頃の自分なのかもしれない。


    More Than a Feeling

    この曲のタイトルを日本語にするとき、私は少し迷う。

    「感情以上のもの」。

    意味としては間違っていない。

    でも、これでは何となく硬い。

    「懐かしさだけではない」。

    こちらの方が、歌の中にある気持ちには近いように思う。

    ただ、それでもまだ全部は言えていない。

    昔の曲を聴く。

    誰かを思い出す。

    その人と過ごした場所や、あの頃の空気まで戻ってくる。

    そして、もう会えないことや、もう戻れないことまで思い出してしまう。

    嬉しいのか、寂しいのか。

    懐かしいのか、後悔しているのか。

    自分でも、はっきり分からないことがある。

    そんなときに More Than a Feeling という言葉が、妙にしっくりくる。

    ひとつの感情では収まらない。

    名前をつけようとすると、何かがこぼれ落ちてしまう。

    Tom Scholzは、音楽によって過去の記憶が呼び戻される感覚を、この曲にした。

    そして50年後の今、私たちはその曲を聴いて、それぞれの過去を思い出している。

    考えてみれば、少し面白い。

    Tomが想像して書いた記憶の歌が、今度は聴いている人たちの本当の記憶を連れてくる。

    Brad Delpの声が高く伸びる。

    Tomのギターが広がる。

    Marianneが歩いていく。

    その姿を見送りながら、私の頭には別の誰かが浮かんでいる。

    もう顔が少し曖昧になった人。

    今ではどこにいるのかも分からない人。

    あの頃、何でもない話をして笑っていた人。

    曲が終われば、私はまた普段の生活に戻る。

    仕事もあるし、やらなければならないこともある。

    それでも、さっきまで聴いていた十二弦ギターの響きが、
    しばらく耳の奥に残っている。

    たぶん明日になれば、また別のことを考えているだろう。

    でも、次にあのイントロが流れたら。

    きっと、また誰かを思い出すのだと思う。

    画像
    『Boston』(1976年)

    そして、Brad Delp。

    あなたの声は、あの頃と少しも変わらず、今も私たちの耳に届いています。

    素晴らしい歌を、本当にありがとう。

    どうか、安らかに。



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