楽曲クレジット
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曲名: Reelin’ in the Years
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アーティスト: Steely Dan
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発表: 1972年(アルバム収録)、1973年(シングル発売)
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作詞・作曲: Walter Becker / Donald Fagen
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収録アルバム: 『Can't Buy a Thrill』(1972年)
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Producer: Gary Katz
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Label: ABC Records
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Lead Vocal / Piano: Donald Fagen
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Bass: Walter Becker
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Drums: Jim Hodder
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Guitars: Denny Dias / Jeff “Skunk” Baxter
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Lead Guitar / Guitar Solo: Elliott Randall
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Backing Vocals: Donald Fagen / David Palmer
その話、まだ覚えていたのか
別れた相手との喧嘩で、何年も前の出来事を持ち出す人がいる。
「あのとき君は、こう言ったじゃないか」
「こっちは、あれだけのことをしたんだぞ」
そんなことを言われても、相手は困るだろう。
いや、言っている本人だって、本当は分かっているのかもしれない。
今さら昔の話を持ち出したところで、何かが変わるわけではないことくらい。
Steely Danの『Reelin’ in the Years』には、そんな男が登場する。
相手の考え方が気に入らない。昔の自慢話まで覚えている。自分が使った金と時間についても、きっちり言及する。
ずいぶん面倒くさい男だ。
しかも、その面倒くささをDonald Fagenが歌うものだから、ますます性格が悪そうに聞こえる。笑
ところが、曲は驚くほど軽快だ。
Elliott Randallのギターが勢いよく飛び出してきて、バンドが気持ちよく走り始める。
歌詞を知らずに聴けば、爽快なロックナンバーである。
知ってしまうと、少々事情が変わる。
この男、ずいぶん未練があるんじゃないか。
しかも、それを認めたくないんじゃないか。
そんな疑いが湧いてくる。
Steely Danは、最初から少しひねくれていた
1972年、Steely Danはデビューアルバム『Can't Buy a Thrill』を発表した。
Donald FagenとWalter Beckerを中心としたバンドで、この頃はDenny Dias、Jeff “Skunk” Baxter、Jim Hodder、David Palmerらが参加していた。
後年のSteely Danといえば、スタジオでの徹底した音作りや、腕利きのミュージシャンを起用した緻密な録音が知られている。
ただ、デビュー作には、まだバンドとしての勢いがはっきり残っている。
『Reelin’ in the Years』は、その両方が聞こえる曲だ。
演奏には勢いがある。
一方で、音の重なり方はよく整理されている。
そして歌詞は、最初から少々意地が悪い。
FagenとBeckerは、ニューヨーク州のBard Collegeで知り合った。
二人の書く歌には、妙に具体的な人物や場所が登場することがある。
けれど、それをそのまま二人の実体験として受け取るのは危険だ。
『Reelin’ in the Years』も、実在の恋人との別れを忠実に記録した歌だと確認されているわけではない。
だから、ここでは歌の中にいる男の話として聴いていこうと思う。
もっとも、こんな男が実際に目の前にいたら、私は少し距離を置くかもしれない。
話が長そうなので。笑
終わりかけの夏に、何をつかむのか
Your everlastin' summer and you can see it fadin' fast
永遠に続くと思っていた君の夏が、みるみる色褪せていく。君自身にも、それが分かっている。
So you grab a piece of somethin' that you think is gonna last
だから今度は、長持ちしそうな何かを見つけて、慌てて手を伸ばす。
Everlasting summer。
終わらない夏、という言葉には、少し若さの匂いがする。
明日のことをそれほど考えなくてもよかった頃。
時間がいくらでもあると思っていた頃。
何かを失っても、次があると信じていた頃。
歌の中の相手は、その夏が終わりかけていることに気づいている。
だから、長く残りそうなものをつかもうとする。
しかし語り手は、その行動をあまり好意的には見ていない。
相手が本当に欲しいものを選んでいるのではなく、
失うことが怖くて手を伸ばしているように見えるのだろう。
でも、少し待ってほしい。
それって、そんなに悪いことだろうか。
歳を重ねれば、誰だって長く続くものが欲しくなる。
落ち着ける場所だったり、安定した生活だったり。
人間関係だって、若い頃とは選び方が変わる。
語り手はそれを皮肉っているけれど、相手には相手なりの事情があったのかもしれない。
この曲の面白さは、語り手の言葉を全部信用しなくても成立するところにある。
むしろ、少し疑って聴いた方が、人間臭くなる。
ダイヤモンドの価値を決めるのは誰だ
Well, you wouldn't even know a diamond if you held it in your hand
君は本物のダイヤモンドを手にしていたって、それが何なのか気づきもしないだろう。
The things you think are precious, I can't understand
君が宝物だと思っているものなんて、僕にはさっぱり理解できない。
なかなかの言い草である。
相手には本物の価値が分からない。
君の選ぶものは間違っている。
そう言いたいらしい。
では、語り手自身は何をダイヤモンドだと思っているのだろう。
自分か。
二人で過ごした時間か。
それとも、相手が見落としている別の何かか。
そこは明かされない。
ただ、私はこの言葉を聴くと、若い頃の自分にも少し思い当たるところがある。
自分が大切にしているものを、相手が大切にしてくれない。
すると、相手の価値観そのものが間違っているように思えてしまう。
音楽でも似たことがある。
自分が素晴らしいと思っている曲を誰かに聴かせて、あまり反応がなかったとき。
「え、これが分からないの?」
そんな顔をしてしまったことが、私にもある。
いや、今でもたまにあるかもしれない。笑
でも、相手には相手の耳がある。
好きな音も違う。
大切にしているものも違う。
それを頭では分かっているのに、心の方がなかなか納得しない。
この歌の男も、そうなのだろうか。
自分にとってのダイヤモンドが、相手にはただの石ころに見えていた。
それが悔しくて仕方がない。
そんなふうにも聞こえる。
過ぎた時間を、釣り糸のように巻き取る
Are you reelin' in the years?
君は過ぎた年月まで、リールで巻き取るように取り戻そうとしているのか。
Stowin' away the time?
あの時間を、どこかにしまい込んでおくつもりなのか。
Are you gatherin' up the tears?
流した涙まで、一つ残らず拾い集めているのか。
Have you had enough of mine?
それとも、僕が流した涙なんて、もう十分だというのか。
Reelin’ in the Years。
曲名にもなっているこの言葉は、訳し方ひとつで随分印象が変わる。
Reel in は、釣り糸などをリールで巻き取ること。
だから、ただ「年月を振り返る」としてしまうと、少し物足りない。
過ぎ去った時間を、手元へ引き寄せようとする。
逃げていくものを、何とかつかまえようとする。
そんな動きがある。
そして次の Stowin’ away the time。
こちらは時間をしまい込む。
巻き取ったものを、今度はどこかへ片づけるような言葉だ。
時間は、そんなふうに扱えるものではない。
それなのに、人は過去を自分の都合に合わせて整理しようとする。
残しておきたい記憶。
消してしまいたい記憶。
なかったことにしたい失敗。
誰かに覚えていてほしい出来事。
面白いのは、語り手が相手に向かって問いかけているのに、実は本人の方が過去にしがみついているようにも聞こえることだ。
そして最後に、自分の涙を持ち出す。
ここで急に、男の強がりが怪しくなる。
散々皮肉を言っておいて、結局、自分も泣いていたのか。
だったら最初からそう言えばいいのに。
まあ、それが言えないから、こんな歌になったのかもしれない。
十七歳から天才だったらしい
You been tellin' me you're a genius since you were seventeen
君は十七歳の頃から、自分は天才だと言い続けてきた。
In all the time I've known you, I still don't know what you mean
これだけ長く付き合ってきたのに、僕にはいまだに何が天才なのか分からない。
この辺りまで来ると、もはや喧嘩である。
しかも、かなり昔の発言を掘り返している。
十七歳の頃から、というのだから相当だ。
ただ、そんな昔のことをよく覚えているものだと思う。
私なら、昨日スタジオで何を話したかさえ怪しい日がある。
そのくせ、何十年も前に誰かが言った妙な一言だけは、しっかり覚えていたりする。
人間の記憶は本当に都合がいい。
歌の語り手も、相手の自慢話をずっと覚えていた。
最初は、その自信に惹かれたのかもしれない。
あるいは、昔から少し鼻についていたのかもしれない。
いずれにしても、別れる段階になってから持ち出すには、かなり古い話だ。
そして、こういうことは実際にある。
一緒にいる間は許せていた癖が、関係が悪くなると急に我慢できなくなる。
自信に満ちた話し方が、ただの自慢に聞こえる。
自由な性格が、無責任に見えてくる。
相手が変わったのか、自分の気持ちが変わったのか。
その区別は、なかなか難しい。
大学の週末に何があったかは、二人しか知らない
The weekend at the college didn't turn out like you planned
大学で過ごしたあの週末も、君の思いどおりにはいかなかった。
The things that pass for knowledge, I can't understand
あんなものが知性として通用するなんて、僕には理解できない。
大学で過ごした週末。
妙に具体的な話が出てくる。
何を計画していたのか。
誰と会ったのか。
何が失敗したのか。
歌詞は何も教えてくれない。
FagenとBeckerがBard Collegeで知り合ったことは事実だが、この歌詞の週末を彼ら自身の特定の出来事と結びつける根拠は確認できない。
だから、無理に説明する必要はないだろう。
ただ、語り手はその出来事まで持ち出して、相手の知性を疑っている。
ここまで来ると、相手の何もかもが気に入らないのだろう。
別れ話の途中で、昔の失敗まで並べられたら、たまったものではない。
でも、その細かい記憶の数々が、かつて二人が近い関係だったことも物語っている。
よく知らない人には、ここまで嫌味も言えない。
長く一緒にいたからこそ、相手の嫌なところも、弱いところも、よく知っている。
それを別れ際に武器として使ってしまう。
あまり褒められたことではない。
ただ、こういう不格好な人間を、FagenとBeckerは実にうまく歌にしてしまう。
Elliott Randallは、何も書かれていないところから弾いた
さて、歌詞の男には少し休んでもらおう。
この曲でどうしても話しておきたいのが、Elliott Randallのギターである。
イントロからいきなり、こちらの耳をつかんでくる。
音は太い。
けれど重たくない。
フレーズは細かく動くのに、せわしなさがない。
あの独特の勢いは、今聴いても気持ちがいい。
Randallは、FagenとBeckerが求めていたリードギターを録音するために参加した。
本人のインタビューによれば、ソロは事前に書き上げたものではなかった。
曲を聴き、その場で反応して弾いた。
使ったのは1963年製のFender Stratocaster。
Ampeg SVTアンプにつなぎ、AKG 414のマイクで録音したと語っている。
そして、もうひとつ面白い話がある。
最初の試奏では、本人やスタジオにいた人たちが気に入る演奏ができたらしい。
ところが、録音機が回っていなかった。
何とも恐ろしい話だ。
その後に録音された最初のテイクが、私たちの知っている演奏になった。
もし自分が同じ目に遭ったら、かなり落ち込むと思う。
「今の良かったよね?」
「うん、最高だった」
「録れてる?」
「……」
想像するだけで嫌だ。笑
ただ、Randallはそこで演奏を再現しようとするのではなく、もう一度、その瞬間の音を弾いた。
この話には、ギタリストとして考えさせられるものがある。
録音した演奏をあとから聴けば、いくらでも直したいところは見つかる。
もう少し音を伸ばせばよかった。
あそこで一音減らせばよかった。
タイミングを少し後ろに置けばよかった。
でも、その瞬間にしか出てこない音もある。
Randallのソロには、そういうものが残っている気がする。
あのソロは、上手さより先に身体が反応する
私はギターソロを聴くとき、つい指の動きを想像してしまう。
どのポジションで弾いているのか。
どこで弦を押し上げているのか。
どういう運指なら、あのフレーズが自然につながるのか。
長年の癖である。
でも『Reelin’ in the Years』は、分析するより先に身体が反応する。
イントロの時点で、もうリズムに乗ってしまう。
Randallのギターは、曲の上に綺麗に乗っているだけではない。
バンドを少し前へ引っ張っている。
しかも、音が詰まっていない。
速いフレーズのあとに、きちんと呼吸する場所がある。
Jeff “Skunk” Baxterによるハーモニーのギターも、あの印象的な響きを作る大切な役割を果たしている。
複数のギターが鳴っているのに、音が団子にならない。
それぞれの置き場所が見える。
ここは、アレンジをする立場から聴いても実に面白い。
そして、あのソロには妙な明るさがある。
歌っている男は、昔の恋人に嫌味を言い続けている。
それなのにギターは、そんなことなど気にも留めず、実に楽しそうに走っていく。
この組み合わせが、Steely Danらしい。
歌詞に合わせてギターまで湿っぽくしていたら、ここまで面白い曲にはならなかったかもしれない。
苦い話を、気持ちのいい演奏で包んでしまう。
聴いている側は、つい笑顔になる。
そのあと歌詞を読み返して、少し困るのである。
ハリウッド旅行の領収書
I spend a lot of money and I spent a lot of time
僕はずいぶん金も使ったし、時間だって費やした。
The trip we made to Hollywood is etched upon my mind
二人で行ったハリウッドへの旅は、今でも頭から離れない。
After all the things we've done and seen, you find another man
あれだけ一緒に過ごして、いろんなものを見てきたのに、君は別の男を見つけた。
The things you think are useless, I can't understand
君がもう価値もないと思っているものを、僕にはどうしても無駄だとは思えない。
三番で、とうとう金の話になった。
これは、ちょっと格好悪い。笑
時間を使った。
金を使った。
旅行にも行った。
それなのに君は別の男を見つけた。
言いたいことは分かる。
ただ、ここまで並べられると、相手は「それで?」と言いたくなるかもしれない。
一緒に過ごした時間や、使ったお金は、相手を引き留めるための保証金ではない。
そんなことは、語り手自身も分かっているはずだ。
それでも、言わずにはいられない。
なぜだろう。
私は、ここで出てくるハリウッドへの旅が気になる。
Etched upon my mind。
頭に刻み込まれている。
ただ覚えているのではなく、消そうとしても消えないような記憶だ。
相手にとっては、過ぎ去った旅行のひとつだったのかもしれない。
でも、語り手にとっては違った。
その旅には、二人の関係がこれからも続くという期待まで含まれていたのだろうか。
だとしたら、彼が腹を立てているのは、旅行代金のことだけではない。
あのとき自分が信じていた未来が、もう存在しないことなのかもしれない。
「大切なもの」が「無駄なもの」に変わるまで
一番の最後では、語り手は相手が大切にしているものを理解できないと言っていた。
ところが三番では、相手が無駄だと思っているものを理解できないと言う。
この変化は、読み飛ばしたくない。
最初の男は、相手を見下している。
君には価値が分かっていない。
君の選ぶものは間違っている。
そんな態度だった。
しかし最後になると、自分が大切にしていたものを相手が捨ててしまったことに、どうしようもなく傷ついている。
相手を責める言葉の形をしているけれど、聞こえてくるのは別の声だ。
あの時間は、そんなに無駄だったのか。
あの旅行も、あの会話も、君にはもう何の意味もないのか。
本当は、そう聞きたいのではないだろうか。
私は、この男を少し気の毒に思う。
もちろん、だからといって嫌味を言っていいわけではない。
でも、人は傷ついたとき、必ずしも綺麗な言葉を選べるものではない。
寂しいと言えば済むところで、相手の欠点を並べてしまう。
忘れられないと言えばいいのに、使った金額の話をしてしまう。
自分でも、何を言っているんだろうと思いながら。
そういう不器用さは、案外珍しくない。
二人で見た景色は、二人のものだったはずなのに
海外で暮らしていた頃のことを思い出すと、いろいろな人の顔が浮かぶ。
一緒に仕事をした人。
スタジオで長い時間を過ごした人。
食事をしながら、くだらない話で笑った人。
当時は、またいつでも会えるような気がしていた。
けれど、年月が経てば、それぞれの生活が変わっていく。
国が違えば、なおさらだ。
連絡を取らなくなった人もいる。
今どこで何をしているのか、分からない人もいる。
そんな人たちと過ごした時間を、私は今でも時々思い出す。
ただ、相手も同じように覚えているとは思わない。
あちらには、あちらの人生がある。
私が大切にしている出来事が、相手には何でもない一日だったかもしれない。
その逆だってあるだろう。
昔、誰かにとって大切だった言葉を、私がすっかり忘れている可能性もある。
そう考えると、少し申し訳ない気もする。
でも、記憶は公平には残らない。
同じ場所にいて、同じ景色を見ていても、持ち帰るものは違う。
この曲の男は、その違いに腹を立てている。
君はなぜ分からないんだ。
僕にはこんなにはっきり残っているのに。
ただ、そこまで相手に求めるのは、少し酷なのかもしれない。
今の私なら、そう思う。
もっとも、若い頃の私が同じように考えられたかどうかは、かなり怪しい。
リールに巻き取れなかったもの
曲名の『Reelin’ in the Years』に戻ろう。
年月を巻き取る。
なかなか面白い表現だ。
過ぎていった時間を、釣り糸のように手元へ戻せたら、どんなに便利だろう。
失敗した演奏をもう一度やり直す。
言わなければよかった一言を飲み込む。
別れ際に、もう少し気の利いた言葉をかける。
そういうことができれば、人生は随分楽になる。
でも、実際にはできない。
録音なら、やり直せることもある。
それでも、最初の演奏とまったく同じものにはならない。
Elliott Randallが録音されなかった最初の演奏を、もう一度そのまま弾けなかったように。
人との時間なら、なおさらだ。
同じ場所へ行っても、同じ人に会っても、あの頃と同じ一日にはならない。
だから、覚えているのだろう。
もう取り戻せないからこそ、妙に細かいところまで残ってしまう。
歌の男は、最後まで相手を皮肉り続ける。
相手が悪いと言い、自分がどれだけ費やしたかを数え、昔の出来事を持ち出す。
でも、その言葉の隙間から、ときどき別の感情が漏れる。
僕にとっては、大切だったんだ。
そう聞こえる瞬間がある。
それを素直に言えないところまで含めて、何とも人間らしい。
あの男も、少しは歳を取っただろうか
1972年の録音だから、もう50年以上が過ぎている。
Walter Beckerは2017年に亡くなった。
あの頃のSteely Danを取り巻いていた人たちも、それぞれに歳月を重ねた。
そして、私も50代になった。
それなのに『Reelin’ in the Years』のイントロは、相変わらず元気がいい。
Elliott Randallのギターは、少しも遠慮しない。
聴くたびに、こちらもつい音量を上げたくなる。
この曲をコピーしようとしていた頃は、ソロのフレーズばかり追いかけていた。
今は、歌詞の男の面倒くささにも、少し耳が向く。
そして、ときどき思う。
もし彼が今もどこかで暮らしていたら、あのハリウッド旅行のことを、まだ覚えているだろうか。
相手に使った金のことまで、まだ言っているだろうか。
それとも、さすがに笑い話になっているだろうか。
できれば、最後の方であってほしい。
自分のためにも。笑
ただ、あの旅が大切だったという気持ちまで、消す必要はないと思う。
相手が忘れていても。
別の意味で覚えていても。
自分にとって大切だったことは、それで変わらないのだから。
Elliott Randallのギターが、また勢いよく鳴り始める。
そういえば、この曲を聴くと、私はいつも少しだけギターを弾きたくなる。
歌詞の男には申し訳ないけれど、彼の恋愛事情より、あのソロの方がよほど気になる。
まあ、それもSteely Danの聴き方としては、悪くないだろう。

Steely Danを生み出したDonald FagenとWalter Becker。
2017年にWalterが亡くなり、今はDonald一人になってしまった。
二人で積み重ねた年月を思うと、この曲のタイトルが少し違って聞こえる。
Walter、素晴らしい音楽をありがとう。
どうか、安らかに。
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