🎸 おじさんギタリストシリーズ LAでベースを弾かされた日

― リズムは理論より早く伝わる ―

三度の話をしておいてなんだけど、所変わって
LAにいた頃の自分は、ベースも普通に弾かされていた。

スタジオで「ちょっとベースやって」と軽く言われる。

軽い感じで言うけど、あれはだいたい断れない。

ギターと違って、逃げ場がない。

音が少ない分、ごまかしも効かない。


ベースって、音数は少ないのに、責任は重い。

リズムが少しズレると、全部が崩れる。

逆に言うと、ちゃんとハマると、それだけで全体がまとまる。

あの感覚は、ちょっと怖い。


そんな中、スタジオで誰かが話していた。

「Mickiのベース、やっぱいいよな」

Micki、ことMichael Steele。

あの独特の“前に出すぎないのに、ちゃんと引っ張る感じ”。

歌の邪魔をしないのに、曲の芯には必ずいる。

ああいうの、理屈で説明するのは難しい。

でも、体では分かる。


しばらくして、少し間が空いた。

誰も弾いていない、あの“微妙な空白”。

スタジオには、ああいう時間がよくある。


そこで、ちょっとした悪戯を思いついた。

深い意味はない。

ただ、あの空気に何か入れたくなった。


ベースを持って、

いきなり弾いた。

“タン、タン・タン、タン”

あのリズム。

E → A → D → G を使った、あの跳ねた感じ。


Walk Like an Egyptian。


一瞬、間があった。

「あ、今それいく?」みたいな空気。


次の瞬間。

ドラムが入る。

ギターが刻む。

そして、なぜかその場にいたハードロックバンドのボーカルが、普通に歌い出す。


スタジオが、一気に曲になる。

Joey Tempest 似の30代のおにいさんだった。

完全にハードロッカーの見た目なのに、
歌い出した瞬間、

Vicki Peterson にも、
Michael Steele にも、
Susanna Hoffs にもなっていく。

…いや、誰なんだお前、ってなる。


あれは面白かった。

誰も打ち合わせしていないのに、
たった一つのリズムで、全員が同じ方向に揃う。

理論も、コードも、説明もいらない。

リズムひとつで、全部つながる。


ベースって、そういう楽器だと思う。

音数じゃない。

“どこに置くか”だけで、景色が決まる。


正直、あのときの自分は、技術的にどうこう考えていなかった。

ただ、あのフレーズが体に入っていただけ。

でも、その“入ってるやつ”が、ちゃんと機能した。


スタジオって、不思議な場所で、

上手いとか下手とかより先に、
「その音、今いるかどうか」がすべてになる。


90年代のあの空気は、どこか陽気だった。

間違えても、止まらない。

むしろ、誰かが乗っかってくる。

正解じゃなくても、音が続いていく。


今思うと、あれはちょっとした理想形だった気がする。


おじさんギタリスト、あのときはベースだったけど、

ああいう瞬間は、今でも好きだ。

たった一つのリズムで、
全員が同じ景色を見る。


あれ、もう一回やりたいなと思うけど、

たぶん今やったら、

弾く前に「これで合ってるっけ?」って確認して、

その時点で、ちょっと遅れるんだろうな。


だから、あの頃のあの一発は、

ちゃんと“あの時代の音”だったんだと思う。


そして今も、たまに思い出す。

あの空白のあとに、
いきなり始まるリズム。


…また誰か、歌い出してくれないかな。 🎸

ちょっとベースやって
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これは笑う。

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