🎸 おじさんギタリストシリーズ ㊶ おじさんギタリスト、謎の筋肉痛 編

― どこもかしこも痛いのに、一番痛いのはプライド ―


弾いてないのに、右肩だけが激痛

朝起きた瞬間、違和感があった。

右肩が、痛い。

いや、正確に言うと、
「あ、これ……やったな」
という種類の痛みだ。

しかし、前日に思い当たる節がない。

ギターは触っていない。
ライブもない。
重い物も持っていない。
スポーツなど、もちろんしていない。

なのに右肩だけが、
「昨日、何かしましたよね?」
という顔をしている。

おじさんギタリストは、まずギターを疑う。

「……昨日、空気ピッキングでもしたか?」

していない。


なぜかピッキング筋だけが元気

肩は痛い。
腰も怪しい。
膝は、天気予報を先取りしてくる。

なのに。

右手のピッキング筋だけが、
異様に元気だ。

試しにギターを持つと、
そこだけは普通に動く。

むしろ、

「今日いけますよ」

みたいな顔をしている。

身体のバランスが、完全におかしい。

おじさんギタリストは思う。

「俺の身体、
 ライブ用と生活用で
 パーツ分けされてない?」


病院で必ず聞かれる、あの質問

さすがに不安になり、病院へ行く。

医者は優しい。
問診も丁寧。

そして、必ず聞かれる。

「で、その痛み、
 何をして痛めました?」

……困る。

「えっと……」
「ギターは……弾いてないんですよね……」
「日常生活で……特に……」

医者は、静かに待つ。

こちらは必死に記憶を探る。

・寝返り?
・洗濯物?
・リモコンを取ろうとした時?
・くしゃみ?

どれも、決定打に欠ける。

最終的に出てくる答えは、これだ。

「……たぶん、
 普通に生きてただけです。」

医者は一瞬だけ黙り、

「それですね」

と言う。


ストレッチの大切さは、知っている

(知っているだけ)

医者に言われる。

「ストレッチ、してますか?」

おじさんギタリストは、反射的に答える。

「はい……
 (するつもりではいます)」

本当は知っている。
ストレッチは大事だ。

ギターを弾く前も、
寝る前も、
朝起きた時も。

全部、やったほうがいい。

でも現実は、こうだ。

・今日はいいや
・あとでやろう
・もう眠い
・明日まとめてやろう

そして、
まとめてやる日は、来ない。

結果、筋肉は勝手に固まり、
ある日、
無言の反乱を起こす。


若い頃は「無理」が音になった

若い頃は、多少無理をしたほうが音に勢いが出た。

寝不足でも、
肩が重くても、
指が痛くても、

「気合」で弾けた。

むしろ、その無理が
音の荒さや鋭さになっていた。

今は違う。

無理は、そのまま痛みとして返ってくる。

しかも、翌日ではない。

二日後。
三日後。

忘れた頃に来る。

だから、
何をしたのか、だいたい覚えていない。


それでも音は、なぜか深くなっている

不思議なことがある。

身体は確実に衰えている。
痛みも増えている。
回復も遅い。

なのに。

ギターを弾くと、
音は昔より落ち着いている。

無理に速く弾かない。
力任せに押さえない。
必要な音だけを選ぶ。

身体が、

「これ以上は、やめとけ」

と教えてくれる分、
音に余白が生まれる。

おじさんギタリストは思う。

「身体は古くなってるけど、
 音は……
 ちゃんと育ってるな」


今日もストレッチは、たぶん途中で終わる

今日も、ストレッチをしようと思う。

床に座り、
肩を回し、
首を伸ばし、

三分後。

「あ、ちょっとギター触ろう」

そして、そのまま。

ストレッチは、忘れられる。

たぶん、明日も同じことを言う。

……たぶん。


一番痛いのは、肩じゃない。

まだ若いつもりでいる、
そのへんのプライドだ。

でも、その分だけ、
音は少し優しくなった。

今日は、それでいい。

あ、これ……やったな
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