収録アルバム:Yours Truly, Angry Mob(2007)
作詞・作曲:Ricky Wilson / Andrew White
プロデュース:Stephen Street
レーベル:B-Unique Records / Polydor Records
■ 何も起きていないようで、感情だけが忙しい歌
「Ruby」は、Kaiser Chiefs を一気にメインストリームへ押し上げた代表曲だ。
跳ねるようなビート、合唱できるサビ、即効性のあるメロディ。
でも、よく聴くと、
この曲が歌っているのは「楽しさ」ではない。
落ち着かなさと
どうにもならない執着。
明るく鳴っているのに、
中身はかなり不安定だ。
■ 冒頭からすでに、感情は空回りしている
Let it never be said
The romance is dead
ロマンスは終わった、なんて
誰にも言わせない
強がっているようで、
実はもう自分が一番分かっている。
‘Cause there’s so little else occupying my head
だって、他に考えることが何もないから
頭の中は空っぽ。
でも、その空間をひとりの名前が占領している。
There is nothing I need except the function to breathe
必要なのは、呼吸する機能くらい
大げさな比喩だけど、
ネイティブの感覚では
「生きるための最低限しか残ってない」
という投げやりさに近い。
■ “Ruby” という名前を呼び続ける理由
Ruby, Ruby, Ruby, Ruby
Do you know what you’re doing to me?
ねえRuby
自分が何をしてるか、分かってる?
問いかけているけど、
答えは期待していない。
このサビは、
相手に届かない独り言だ。
名前を繰り返すのは、
愛情というより
確認行為に近い。
まだ気にしている。
まだ引っかかっている。
それを自分自身に言い聞かせている。
■ 「明日がキャンセルされる」という言い回しの鋭さ
Due to lack of interest
Tomorrow is cancelled
興味が持てないから
明日はキャンセルだ
これは失恋ソングとして、かなり強い表現だ。
未来が悲しいわけじゃない。
興味が湧かない。
その温度感が、
逆にリアルだ。
Let the clocks be reset
And the pendulums held
時計をリセットして
そして、振り子を止めてくれ。
時間を進めたいわけでも、巻き戻したいわけでもなく、
「いったん止めたい」という願い。
忙しさや後悔の中でふと出てくる
「少しでいいから、立ち止まらせてくれ」
その感覚に一番近いと思う。
■ 前でも後ろでもない位置
’Cause there’s nothing at all
Except the space in-between
だって、そこには何もない。
ただ、間に残された空白があるだけだ。
ここで言う “space in-between” は、
関係が始まる前でも
終わった後でもない
宙ぶらりんの状態。
Finding out what you’re called
And repeating your name
君の名前を知って
それを繰り返すだけ
関係が進まないとき、
人は名前だけを呼び続ける。
それ以上、できることがないから。
■ 「冗談なんだろ?」という問いの痛さ
Could it be that you’re joking with me?
もしかして、からかってるだけ?
怒りではない。
責めてもいない。
ただ、
自分が本気だったことだけが浮き彫りになる質問。
And you don’t really see you with me?
僕と一緒の未来なんて
見てなかったんだろ?
ここで初めて、
現実に触れてしまう。
■ 音楽的には、あまりにもポップすぎるのが逆に残酷
「Ruby」は
ブリットポップ以降のUKロックの中でも、
かなり開けた音をしている。
Stephen Street のプロデュースもあって、
リズムは軽快、コーラスは分厚い。
だからこそ、
この歌の中身の“空虚さ”が際立つ。
楽しそうに歌える。
一緒に叫べる。
でも、
歌い終わったあと、
少しだけ胸に残るものがある。
ちなみに、PVでは
見事に迷惑な演奏をする“巨人たち”が街を練り歩く。
あの悪ふざけのスケール感は、この曲が持つ軽さと図々しさを、
かなり正直に映していると思う。笑
■ 今あらためて聴くと、違って聞こえる理由
若い頃は、
この曲はただのアンセムだった。
盛り上がるし、
分かりやすいし、
勢いがあった。
でも、
少し年を重ねて聴くと、
この曲は
気持ちの置き場を失った人の歌に聞こえる。
前に進めない。
戻れもしない。
それでも、
名前だけは呼んでしまう。
■ 余韻として残ること
「Ruby」は、
物語を前に進めてくれない。
状況も、気持ちも、
あまり変わらないまま繰り返される。
なのに、
サビを歌い終わったあと、
なぜか少し息を吐いてしまう。
解決したわけじゃない。
納得したわけでもない。
ただ、
自分がどこで立ち止まっているかだけは分かる。
それだけの歌が、
長く残ることもある。
「Ruby」は、
そういう曲だと思う。


