楽曲クレジット
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曲名: C'est la Vie
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アーティスト: Robbie Nevil(ロビー・ネヴィル)
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発表: 1986年
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作詞・作曲: Robbie Nevil、Duncan Pain、Mark Holding
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収録アルバム: 『Robbie Nevil』(1986年)
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Producer: Alex Sadkin、Phil Thornalley
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Label: Manhattan Records(EMI)
あの頃、妙に耳に残ったフランス語
1980年代の洋楽には、意味がよく分からなくても、つい口ずさんでしまう曲がたくさんあった。
ラジオから流れてくる洋楽を聴いて、英語だと思っていたら、突然フランス語が飛び込んでくる。
「セ・ラ・ヴィ、セ・ラ・ヴィ」。
Robbie Nevilの「C'est la Vie」も、そんな一曲だった。
軽快なリズムに、少し跳ねるようなギター。
どこかソウルっぽく、それでいてロックの匂いもある。
当時のアメリカンポップスらしい、実に気持ちのいいサウンドだった。
1986年に発表され、翌1987年にはアメリカのBillboard Hot 100で最高2位、イギリスでも3位を記録した。
これだけのヒット曲だから、あの時代に洋楽を聴いていた人なら、どこかで耳にしたことがあるんじゃないだろうか。
ところが、今になって歌詞を読み返すと、少し印象が変わる。
この曲、思っていたほど能天気な歌ではないのだ。
むしろ、日々の暮らしに疲れた人間が、少し無理をして笑っているようにも聴こえる。
働いて、働いて。それで人生は終わるのか
曲の冒頭から、主人公は仕事の話を始める。
歌詞引用・日本語意訳
Got a job that's okay
仕事はある。まあ、悪くない。
But they've got me working night and day
でも、朝から晩まで働かされっぱなしだ。
Punching in, punching out
タイムカードを押して、また一日が終わる。
Is this really what life's all about?
人生って、本当にこれだけなのか?
なかなか切実な歌詞だと思う。
仕事がないわけではない。
生活も、それなりに成り立っている。
でも、毎日同じことの繰り返し。
朝から晩まで働いて、気づけば一日が終わっている。
そして、ふと思う。
「これが人生なのか?」と。
50代になった今、この気持ちは若い頃とは少し違って響く。
若い頃は、忙しいことそのものに意味を感じられた。
仕事があって、音楽があって、次の予定がある。
それだけで、何となく前へ進んでいる気がした。
今だって、忙しいのは変わらない。
ただ、身体のほうが先に文句を言うようになった。笑
ギターを弾く仕事なら、なおさらだ。
好きで続けていることなのに、疲れるときはちゃんと疲れる。
それでも、翌日にはまたギターを手に取っている。
この曲の主人公とは事情が違うけれど、日々の繰り返しの中で、ふと立ち止まる感覚には覚えがある。
しかも、そんな少々重たい問いかけを、Robbie Nevilは実に軽快なリズムに乗せて歌ってしまう。
そこが、この曲の面白いところだ。
実は、Robbie Nevilが最初に歌った曲ではなかった
ここで少し、曲の背景に触れておきたい。
「C'est la Vie」は、Robbie Nevilの名前を世界に知らしめた曲だが、彼が最初にレコードとして発表したわけではない。
1984年、アメリカのソウル/ゴスペル歌手Beau Williamsが、アルバム『Bodacious!』で先に録音している。
Robbie Nevil自身も、この曲の共作者の一人だった。
つまり、自分が関わって書いた曲が、別の歌手によって先に世に出ていたのである。
さらに興味深い話がある。
フランスのRadio VINCI Autoroutesが2023年に紹介した制作逸話によれば、Nevilは当初、この曲をKool & the Gangに歌ってもらうことを考えていたという。
ところが、その構想とは違う形でBeau Williamsの録音が先に発売された。
その後、自身のデビューアルバムを制作することになったNevilは、プロデューサーからこの曲を取り上げるよう勧められた。
しかし本人は、すでに古い曲だと感じて、あまり乗り気ではなかったらしい。
同じ記事には、彼の祖母がこの曲の可能性を感じ、本人の考えを変えるきっかけになったという逸話まで紹介されている。
ただし、祖母の話については本人の直接証言までは確認できなかったため、あくまで後年に紹介されたエピソードとして受け止めたい。
それでも面白い。
自分が書いた曲なのに、自分では少し古く感じていた。
ところが、その曲が世界的なヒットになってしまう。
曲を作る人間にとって、これほど予測の難しい話もないだろう。
アレンジが変わり、歌い手が変わり、世に出るタイミングが変わる。
それだけで、同じ曲がまったく違う表情を見せることがある。
音楽は、作った人間の思いどおりにだけ育つわけではない。
「なるようになるさ」は、本当に前向きな言葉なのか
さて、曲の中心にある言葉。
C'est la vie.
フランス語で、「それが人生さ」「人生なんてそんなもの」という意味だ。
英語の That's life に近い。
サビでは、この言葉が何度も繰り返される。
歌詞引用・日本語意訳
C'est la vie, c'est la vie
それが人生さ。まあ、そんなものさ。
That's just the way it goes
物事なんて、そういうふうに転がっていくものさ。
そのあとには、英語で「それが人生」という意味の合いの手が入る。
再びフランス語のフレーズが繰り返され、最後は軽い鼻歌のような声で締めくくられる。
言葉にすると、ずいぶん簡単だ。
しかし、ここが実に面白い。
「なるようになるさ」と訳すと、明るく前向きな響きになる。
一方で、「まあ、そういうものさ」と訳せば、諦めにも聞こえる。
「仕方ないね」と言えば、少し寂しい。
同じ言葉でも、誰が、どんな顔で口にするかによって温度が変わる。
しかも、サビで歌われるのは、これから人生が良くなるという約束ではない。
物事は、そういうふうに進んでいくものだ。
ただ、それだけなのである。
仕事が忙しくても、恋人が去っても、車が壊れても。
人生は、こちらの都合を待ってくれない。
だからといって、ずっと深刻な顔をしていても仕方がない。
この曲の場合、私は単純な楽観主義だけではないと思っている。
主人公は、仕事に疲れている。
恋人にも去られている。
それでも、音楽は止まらない。
むしろ、ますます陽気になっていく。
まるで、深刻な顔をしていたって仕方がないだろう、と自分に言い聞かせるように。
この軽さは、強さなのだろうか。
それとも、弱さを見せないための工夫なのだろうか。
どちらとも取れるところが、私は面白いと思う。
恋人が去っても、街にはまだ誰かがいる
二番になると、話題は仕事から恋愛へ移る。
歌詞引用・日本語意訳
Baby's gone, all alone
恋人は去ってしまった。今はひとりぼっち。
Are you sad because you're on your own?
ひとりになって、寂しくて仕方ないのかい?
Get back up, party down
だったら立ち上がって、思いきり楽しもうぜ。
There's so many good ones still around
素敵な相手なら、まだまだたくさんいるじゃないか。
恋人が去り、一人になった。
寂しいかい?
だったら、もう一度立ち上がって、街へ出ればいい。
まだ素敵な人はいくらでもいるじゃないか。
そんな具合だ。
ずいぶん軽い。
失恋したばかりの人に言ったら、場合によっては怒られそうでもある。笑
でも、よく考えると、これも人生のひとつの知恵なのかもしれない。
失ったものを、すぐに取り戻すことはできない。
別れた相手の代わりが簡単に見つかるとも限らない。
それでも、ずっと同じ場所に座っているわけにはいかない。
立ち上がって、少し外の空気を吸う。
それくらいのことなら、できるかもしれない。
この曲は、失恋の痛みを丁寧に説明しない。
悲しみの理由を掘り下げたりもしない。
ただ、もう一度踊ろうと言う。
少々乱暴だけれど、そんな励まし方が必要な日もあるのだと思う。
JJの車まで壊れてしまった
そして、曲の途中には妙な会話が登場する。
JJという人物に向かって、車はどうしたんだ、と声をかける場面だ。
どうやら車が故障して、動かなくなってしまったらしい。
仕事は忙しい。
恋人はいなくなる。
おまけに車まで動かない。
なかなか散々な人生である。
それなのに、曲は相変わらず陽気だ。
ここまで来ると、少し笑ってしまう。
JJが具体的に誰を指しているのかについては、今回確認した資料では特定できなかった。
実在の人物をモデルにしたのか、歌の中の架空の人物なのかも断定できない。
ただ、曲の流れの中では、この小さな会話が実にいい働きをしている。
それまでの歌詞は、仕事や恋愛についての話だった。
ところが、突然、友人同士の雑談のようになる。
「おい、車どうした?」
そんな声が聞こえてきそうだ。
私は、この何でもないやり取りに、妙な生活感を感じる。
人生がうまくいかない理由なんて、大げさなものばかりではない。
車が壊れる。
電車に乗り遅れる。
大切な日に限って、機材の調子が悪くなる。
ギタリストなら、ライブ前に突然ケーブルが接触不良を起こす、なんてこともある。
そういうときに限って、予備のケーブルが見つからない。
いや、これは少し話がそれた。笑
でも、そんな日常の小さな災難まで歌にしてしまうところが、この曲らしい。
このギターは、前へ出すぎない
ギタリストとして聴くと、「C'est la Vie」はなかなか面白い。
まず、リズムの重心がいい。
跳ねるようなビートの中に、細かく刻まれるギターがいる。
ギターは主役ではない。
しかし、いなくなると曲の印象がずいぶん変わってしまいそうだ。
音を伸ばして存在感を示すのではなく、短い音をリズムの隙間に置いていく。
こういう演奏は、派手ではないけれど難しい。
弾く場所が少し前に寄るだけで、せわしなくなる。
逆に後ろへ引きすぎると、曲の勢いがなくなる。
ベースやドラムとの間合いが大切になる。
そして、Nevilの声。
少し鼻にかかったような、軽くざらついた声が、この曲にはよく合っている。
ソウルの影響を感じさせる歌い回しだけれど、重たくなりすぎない。
肩の力を抜いているようで、実際にはかなり細かくリズムを扱っている。
このあたりは、歌いながらギターを弾く人間には気になるところだ。
歌と演奏が互いに場所を譲り合っている。
全部の音が前へ出ようとしていない。
それが、あの軽快さにつながっているように聴こえる。
突然スターになった男の、意外な言葉
1987年4月2日付の『Los Angeles Times』には、Robbie Nevil本人へのインタビューが掲載されている。
そこで彼は、突然有名人として扱われるようになったことへの戸惑いを語っていた。
もともと、自分を飾り立てたり、実際の自分とは違う人物に見せたりすることを好まなかったという。
ところが、ヒット曲が生まれると、周囲は彼をスターとして扱い始めた。
本人にとっては、それが少々居心地の悪いものだったらしい。
また、最初のシングルが大ヒットすることを夢見ることはあっても、本当にそうなるとは思っていなかったとも語っている。
成功してからも普通の生活を続けようとする。
けれど、もう生活そのものが普通ではなくなってしまっている。
そんな戸惑いが、当時のインタビューから伝わってくる。
ここは、なかなか興味深い。
「C'est la Vie」の主人公は、仕事や恋愛の問題に向かって、まあそんなものさ、と歌う。
一方、現実のRobbie Nevilは、予想もしなかった成功によって、それまでの生活が変わってしまった。
もちろん、この曲が彼自身の突然の成功を歌ったものだというわけではない。
曲は、その成功より前に書かれている。
ただ、結果として、歌の中の言葉が彼自身の人生にも重なって見える。
思いどおりにならないのは、失敗したときだけではない。
成功したときでさえ、人間は戸惑うことがある。
そう考えると、あの軽いフランス語が少し違って聞こえてくる。
80年代のポップスには、こういう余裕があった
1986年から1987年にかけての洋楽チャートを思い出す。
ロック、ソウル、ダンスミュージック、シンセポップ。
さまざまな音楽が、同じラジオから流れていた。
Robbie Nevilの音楽も、ひとつのジャンルに簡単には収まらない。
ロックのギターがあり、ソウルの歌い回しがあり、ダンスミュージックのビートがある。
それらを無理に主張することなく、一曲の中へ収めている。
今聴いても、音の組み合わせが実に自然だ。
そして、何よりメロディーが覚えやすい。
難しいことをやっているようには聞こえないのに、いざ同じ雰囲気を出そうとすると、案外難しい。
私は、こういう曲を聴くたびに思う。
音楽は、複雑であればいいというものでもない。
一度聴いただけで身体が動く。
気がつけば、サビを口ずさんでいる。
それだけで十分に強い曲もある。
「C'est la Vie」は、まさにそういう一曲だったのだろう。
なるようになる、だけでは済まない年齢になった
若い頃、「なるようになるさ」という言葉は、もっと気楽に使えた気がする。
多少失敗しても、またやり直せばいい。
仕事がうまくいかなければ、次を探せばいい。
恋愛だって、いつかまた誰かに出会えるだろう。
そんなふうに思えた。
もちろん、当時は当時で真剣だった。
ただ、今になって振り返ると、あの頃には時間がたくさん残っているように感じていた。
50代になると、少し事情が変わる。
身体のこともある。
仕事の責任もある。
簡単には取り戻せないものも増えてくる。
「なるようになるさ」と笑って済ませられないことだって、当然ある。
それでも、この曲を聴いていると、少しだけ肩の力が抜ける。
人生を全部、自分の思いどおりに動かそうとしなくてもいいのかもしれない。
もちろん、何もしなくていいという意味ではない。
やるべきことはやる。
働くときは働く。
ギターを弾くときは、ちゃんと弾く。
それでも、どうにもならないことはある。
そんなときに、少し笑ってみる。
この曲の「C'est la Vie」は、今の私にはそんな言葉として聞こえる。
あの軽さは、案外深かったのかもしれない
久しぶりにこの曲を聴いてみる。
相変わらず、気持ちのいいリズムだ。
ギターは軽快で、ベースはよく動き、Robbie Nevilの声も若々しい。
何も考えずに聴いていれば、ただ楽しい80年代のヒット曲として終わるだろう。
それでも、歌詞を知ってから聴くと、少しだけ違う。
働きすぎている男。
恋人に去られた誰か。
車が壊れて困っているJJ。
みんな、それぞれにうまくいっていない。
なのに、曲の中では誰も深刻になりすぎない。
私は、そこにこの曲の優しさがあるような気がしている。
人生の問題を解決してくれるわけではない。
立派な答えを教えてくれるわけでもない。
ただ、少しだけ笑わせてくれる。
若い頃は、あの軽快なサウンドばかり聴いていた。
今は、その軽さを保つことが、案外難しいのだと分かる。
仕事が終わって、疲れた身体で帰ってくる。
ギターケースを置いて、椅子に腰を下ろす。
今日はもう弾かなくてもいいかな、と思う。
でも、しばらくすると、やっぱり一本手に取ってしまう。
別に何かが解決したわけではない。
明日の予定が減るわけでもない。
それでも、少し音を鳴らすと、気分が変わることがある。
あの曲も、そんな役割を持っていたのかもしれない。
セ・ラ・ヴィ。
昔は、ただ格好いい響きのフランス語だった。
今は、少し疲れた日に口にしてみたくなる。
……まあ、そういう日もあるさ。
そう言って、もう一度ギターを鳴らしてみる。

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