🎸 SPLIT ENZ史 第12章

『True Colours』

ようやく世界が、Split Enzを見つけた

1979年のSplit Enzには、
まだ「成功したバンド」という言葉は似合わなかった。

『Frenzy』を出した。
「I See Red」もあった。
Nambassaでは大勢の観客の前に立った。
Australiaを回れば、客も入るようになっていた。

第11章までを振り返れば、確実に前へ進んでいる。

でも、ここまで来るのに何年かかったんだろうと思う。

New Zealandを出た。
Australiaへ行った。
Englandへ渡った。
Europeを回った。
Americaにも行った。

メンバーが何人も入れ替わった。
レコード会社との関係も切れた。
マネージメントも揺れた。
金もなかった。

1978年には解散説まで流れた。

それでも曲を作っていた。

そして1979年。

Split Enzは、もう一度レコードを作ろうとしていた。

ただし今度のレコードは、
それまでとは少し意味が違った。

後にNeil Finnは、この時期について、
次のアルバムが成功しなければ終わりだというところまで来ていたと振り返っている。

何年も続けてきたから、
次も続くとは限らない。

むしろ長く続けた分だけ、
借金も疲れも積み重なっていた。

信用なら山ほどある。

でも信用では家賃は払えない。

第7章で書いた話が、
まだ終わっていなかった。

Split Enzには、
そろそろ売れるレコードが必要だった。

成功したバンド
楽天 / Amazon / Yahoo / メルカリ


1979年、今度はAustraliaへ

Englandを目指していた頃とは、
もう状況が違っていた。

Split Enzは再び、
Australiaを活動の中心に置くようになる。

これは後から見ると、
かなり大きな方向転換だったと思う。

何年もEnglandを目指してきた。

YesやGenesisやRoxy Musicを聴き、
Beatlesの国へ行くことを夢見て、
実際にLondonまで行った。

Phil Manzaneraともレコードを作った。

それでも、
そこに自分たちの居場所を作ることは出来なかった。

一方Australiaでは、
少しずつ客が増えていた。

「I See Red」も反応を得た。
『Frenzy』も売れ始めた。
Tourをすれば人が来る。

世界の中心だと思っていた場所から離れたら、
別の場所で自分たちを待っている人が増えていた。

人生というのは、
たまにこういう意地悪をする。

必死に開けようとしていた扉は開かない。

諦めて少し横を見ると、
別の扉が半分くらい開いている。

Split Enzは、
そちらへ動き始めた。


Phil Juddと、また同じTourに出る

そして1979年には、
少し不思議な再会もあった。

Phil Judd。

Split Enzを離れ、
一度戻り、
また離れたPhilは、
The Swingersという新しいバンドを始めていた。

そのThe SwingersとSplit Enzが、
同じTourを回る。

少し前まで、
同じバンドにいた人だ。

しかもPhil Juddは、
ただの元メンバーではない。

Split Enzの始まりそのものにいた人だ。

Timと一緒に曲を書き、
このバンドの妙な部分を作った人でもある。

そのPhilが今度は、
別のバンドとして同じStageに立つ。

私はこういう話に弱い。

人間関係というのは、
「仲間」と「他人」の二つだけでは出来ていない。

一緒にやれなくなることと、
その人の音楽まで嫌いになることも同じではない。

Split EnzはSplit Enzとして進む。

PhilもPhilとして進む。

同じ夜に、
それぞれ別の音を鳴らす。

何年か前なら、
想像出来なかった景色だったと思う。


Aucklandに、まだ次のAlbumの音が残っていた

次のAlbumへ向けて、
Split Enzは曲を作り続けた。

その過程で重要な場所になったのが、
AucklandのHarlequin Studiosだった。

Doug Rogersが運営していたStudioだ。

ここでSplit Enzは、
次のAlbumへ向けたDemoを録音している。

しかも、
かなりの量が残された。

Doug Rogersは後年、
当時の8-track Tapeを保管していること、
そこにはDemoだけでなく、
Bandが曲を組み立てていく途中の音まで残っていると話している。

これは聴いてみたい。

完成した「I Got You」だけではない。

まだ誰も、
それが「I Got You」になると知らない時間。

Eddieが音を探す。
NigelがBassを合わせる。
MalcolmがRhythmを変える。
Neilが何かを弾く。
Timが横から何か言う。

失敗する。

もう一度やる。

そういう音だ。

完成したRecordは、
どうしても最初からそこにあったように聞こえてしまう。

でも曲は、
いきなり完成品として部屋へ入ってくるわけではない。

ギターを弾いていると、
そこは嫌というほど分かる。

最初のDemoなんて、
だいたい頼りない。

本人だけが、

「いや、ここから良くなるんだよ」

と思っている。

周りにはまだ見えていない。

そこから本当に良くなることもある。

そのまま二度と開かないFolderへ入ることもある。

私のPCにも、
後者がかなりいる。


Doug Rogersが作っていたかもしれない『True Colours』

そして、
ここにはもう一つ面白い話がある。

Doug Rogersは、
そのまま次のAlbumをProduceする可能性があった。

HarlequinでのDemo制作はうまくいっていた。

Bandとの関係も良かった。

Doug自身も、
曲には十分な可能性があると感じていた。

WellingtonのEMI Studioで、
そのままAlbumを作る話まで出た。

もし実現していたら、
私たちが知っている『True Colours』とは、
かなり違う音になっていたかもしれない。

でも、
その話は実現しなかった。

Michael Gudinskiが、
別の判断をした。

Split Enzには、
もう一人候補がいた。

David Tickle。


「I See Red」を録った若いEngineer

David Tickleは、
Split Enzにとって初対面ではなかった。

第10章、第11章へつながる時期に、
「I See Red」の録音ですでに関わっている。

まだ若い。

でも、
BlondieやThe Knackの録音にもEngineerとして関わっていた。

そして何より、
Split Enzの音を知っていた。

ここが大きかったのだと思う。

Split Enzには、
もう「変わったバンドですね」と驚くProducerは必要なかった。

変なのは本人たちが一番よく知っている。

必要だったのは、
その変な部分を残しながら、
何を削れば曲が前へ出るのかを判断出来る人だった。

David Tickleがやったことは、
音を増やすことより、
むしろ減らすことだった。


40曲あるのに、また曲を書く

これもSplit Enzらしい。

次のAlbumへ向けて、
すでに大量の曲があった。

Noel Crombieは後年、
『True Colours』を録音する前に40〜50曲ほど書いていたと振り返っている。

Timも、
かなりの曲があったと話している。

普通なら、
そこから選ぶ。

40曲もあれば十分だ。

私ならもう、

「はい、選曲会議しましょう」

と言う。

ところがSplit Enzは、
録音直前になって、

新しい曲を書こう、

となる。

なぜだ。

40曲ある。

まだ書く。

歌詞の沼は、
機材沼とは別系統の静かな沼である。

でも、
その最後の時期に出てきた曲が、
Albumの景色を変えることになる。


Rose Bayで、兄弟が曲を書く

SydneyのRose Bay。

Tim FinnとNeil Finnは、
同じApartmentで曲を書いていた。

この頃、
二人は互いに曲名を投げ合うようなこともしていたという。

タイトルを一つ出す。

相手が、
そこから曲を書く。

兄弟だから出来るのか、
兄弟だから面倒なのか。

たぶん両方だと思う。

そしてTimが、
Neilに一つのTitleを渡した。

「I Got You」。

ここから、
Split Enzの歴史が大きく動く。

でも面白いことに、
Neil本人は、

「これは絶対Hitする」

などとは思っていなかった。

むしろ、
Chorusは少し弱いのではないかと思っていた。

これが私は好きだ。

後から歴史を知っている私たちは、
「I Got You」を最初から名曲として聴いてしまう。

でも書いた本人には、
まだ未来が見えていない。

ただ、
出来たばかりの一曲だ。


「I Got You」

「I Got You」を今聴くと、
本当に無駄が少ない。

最初のGuitar。

EddieのKeyboard。

Bass。

Drum。

そしてNeilの声。

昔のSplit Enzを知っている耳で聴くと、
少し驚く。

「Stranger Than Fiction」の頃なら、
もう一つ何か入ってきそうな場所で、
何も来ない。

曲が曲がりそうなところで、
曲がらない。

誰かが妙な音を足しそうな場所で、
ちゃんと歌が残っている。

若い頃のSplit Enzは、
空いている場所を見ると、
何か置きたくなるBandだった。

『True Colours』のSplit Enzは、
空いている場所を、
そのまま残せるようになっていた。

これは簡単そうで、
演奏する側には結構難しい。

弾けるのに弾かない。

入れられるのに入れない。

50代になって、
ようやく少し分かる。

音を増やす方が、
実は簡単だったりする。


David Tickleは、もっと減らした

David Tickleは、
「I Got You」の可能性をかなり早い段階で感じていた。

そして、
曲をもっと単純な形へ持っていった。

NeilのGuitarは、
長く伸ばす音を減らして、
短く刻む。

Malcolm GreenのDrumも、
以前のように曲の隙間をFillで埋めるのではなく、
もっと土台へ寄る。

Nigel GriggsのBassも、
その下を支える。

Eddie RaynerのKeyboardも、
音数を整理する。

そして、
かなり象徴的なのがPianoだった。

EddieといえばPiano。

初期Split Enzでは、
あれだけ大きな役割を持っていた。

でもDavid Tickleは、
Pianoが音の中を混雑させると考えた。

その結果、
EddieはSynthesizerを中心に使うようになる。

これだけでも、
昔のSplit Enzとはかなり違う。

『Mental Notes』では、
Pianoが部屋そのものを作っていた。

『True Colours』では、
Keyboardが部屋の中へ光を置いているように聞こえる。

同じEddie Raynerなのに、
音の置き場所が違う。


Noel Crombieの音まで減った

そして、
もっと大きく変わった人がいる。

Noel Crombie。

ここまでのSplit Enzでは、
Spoonも叩いた。
Percussionも鳴らした。
Stageでは妙な動きをした。
衣装も作った。

Split Enzの「何だこれは」のかなりの部分を、
Noelが担当していたと言ってもいい。

ところが『True Colours』では、
David TickleがPercussionをかなり減らした。

後年Eddie Raynerも、
当時のMixではNoelのPercussionが十分に生かされなかったと振り返っている。

つまり、
音だけを見れば、
Noelの場所まで少し小さくなった。

でも、
Noel Crombieは消えない。

別のところで、
Albumに巨大な仕事を残す。

Coverだ。


色が違う『True Colours』

『True Colours』のCoverは、
Noel CrombieによるDesign。

幾何学模様のような、
かなり単純な形だ。

昔のSplit EnzのCoverと比べると、
ずいぶん違う。

Phil Juddの絵が持っていた、
少し怖くて、
少し気味の悪い世界とは違う。

線。

色。

形。

そして、
よく見るとそこには、

ENZ

が隠れている。

しかも『True Colours』は、
一種類の色だけでは終わらなかった。

色違いのCoverが作られた。

同じAlbumなのに、
持っている人によって色が違う。

タイトルが『True Colours』なのに、
その「Colours」が一つではない。

いかにもSplit Enzだと思う。

そして後には、
Recordそのものの表面へ模様を刻んだLaser Etched Vinylまで登場する。

音楽だけでなく、
Recordという物そのものまで作品にしてしまう。

NoelのPercussionが少なくなっても、
Noel CrombieはやっぱりSplit Enzから消えない。

置き場所が変わっただけだった。


まだ持っていない色を探して

この色違いジャケットには、私にも少し思い出がある。

L.A.にいた頃、私は『True Colours』の色違いをいくつか手に入れた。

最初から全部集めようと思っていたわけではない。

でも二枚、三枚と違う色が並び始めると、妙なことになる。

まだ持っていない色が気になってくるのだ。

これはもう、レコードを聴くという話から少し外れている。

いや、かなり外れている。

日本へ戻ってからも、その病気は治らなかった。

池袋のWAVEやタワレコへ行って、
山野楽器を覗いて、レコファンにも寄る。

輸入盤の棚でSplit Enzを見つけるたびに、一枚ずつジャケットを確認する。

「これは持ってる」

「これもある」

「あ、この色は違うか?」

と思って引っ張り出したら、微妙に印刷の色味が違うだけだったりする。

今ならネットで画像を検索すれば、
どんなヴァリエーションが存在するのか、かなり簡単に調べられる。

欲しい盤があれば、海外の出品まで探せる。

でも当時は、店へ行かなければ分からなかった。

だから池袋を歩いた。

レコード屋を何軒もはしごして、
Split Enzの「S」のところまで行って、また同じジャケットをめくる。

なければ何も買わずに次の店へ行く。

今考えると、ずいぶん効率の悪いことをしていた。

でも、不思議とあの時間はよく覚えている。

欲しかった色を見つけた時は、曲が増えたわけでもないのに嬉しかった。

中に入っているのは、だいたい同じ『True Colours』なのに。

50代になった今なら、
「同じアルバム、そんなに何枚も要る?」
と言われたら、かなり返事に困る。

たぶん要らない。

でも、欲しかったのである。

レコードを集めていた頃には、そういう理屈の通らない楽しさがあった。

L.A.で手に入れた何枚かと、日本へ戻ってから池袋を歩いて探した何枚か。

『True Colours』の色を見ると、
私は「I Got You」や「Shark Attack」の音だけではなく、
あの頃のレコード屋の棚まで思い出す。

ジャケットの色を探していたはずなのに、
今となっては、その時の自分まで一緒に残っている。

たぶん、こういうものは全部揃えてしまうより、
あと一枚くらい見つからない方が楽しかったのかもしれない。

TRUE COLOURS

「Shark Attack」

Albumの最初に鳴るのは、
Tim Finnの「Shark Attack」。

これがいい。

「さあ、売れるPop Bandになります」

みたいな始まり方をしない。

ちゃんと少し変だ。

でも、
昔の変さとは違う。

短い。

速い。

Rhythmが前へ出る。

音が整理されている。

昔なら、
その妙なIdeaをもう少し引っ張ったかもしれない。

ここでは、
必要なところだけ置いて次へ行く。

そして次が、

「I Got You」。

この二曲が並んでいることで、
『True Colours』が何をしたAlbumなのか、
かなり分かる気がする。

Split Enzは普通になったのではない。

変なところを、
短い時間の中へ押し込めるようになった。


Tim Finnは、まだ真ん中にいる

「I Got You」があまりにも大きな曲になったので、
後からこのAlbumを見ると、

Neil FinnがSplit Enzを変えた、

という物語にしたくなる。

でも、
まだ少し早い。

『True Colours』11曲のうち、
Tim Finnの曲は6曲ある。

「Shark Attack」。

「I Wouldn’t Dream Of It」。

「I Hope I Never」。

「Nobody Takes Me Seriously」。

「Poor Boy」。

「How Can I Resist Her」。

まだ、
Albumの中心にはTimがいる。

ただ、
その隣でNeilが明らかに大きくなった。

「I Got You」。

「What’s The Matter With You」。

「Missing Person」。

『Dizrythmia』では、
まだ自分の場所を探していた18歳だった。

『Frenzy』では、
「Give It A Whirl」があった。

そしてここで、
Neil Finnはとうとう、

「Tim Finnの弟」

だけでは説明出来ない場所へ出てくる。


「I Hope I Never」

でも私は、
『True Colours』を「I Got You」だけのAlbumだとは思えない。

Tim Finnの「I Hope I Never」がある。

この曲になると、
Albumの空気が急に変わる。

それまで前へ進んでいたRhythmが、
少し止まる。

Piano。

声。

空間。

Tim Finnという人は、
妙な服を着て、
Stageで大きく動いて、
少し芝居がかったところもある。

でも、
こういう曲になると、
その外側が急に消える。

残るのは声だ。

若い頃の私は、
こういうBalladを聴く時、
Melodyばかり追っていた気がする。

今は、
声が少し弱くなるところを聴く。

言い切らないところ。

強く歌わないところ。

歳を取ると、
上手く歌っている場所より、
少し崩れそうな場所の方が残ることがある。

困った耳になった。

でも、
嫌いではない。


「Poor Boy」

そして「Poor Boy」。

私はこの曲も、
『True Colours』の中ではかなり重要だと思う。

Popになった。

音が整理された。

曲も短くなった。

でも、
Split Enzの少し暗いところは消えていない。

明るい部屋の隅に、
一か所だけ電気の届かない場所がある。

そんな感じがする。

『Mental Notes』の暗さとは違う。

昔は、
部屋そのものが少し怖かった。

『True Colours』では、
部屋は明るい。

でも、
人間の中にはまだ暗いところがある。

そこがいい。

Pop Songになったからといって、
全部を明るくする必要はない。

むしろ音が整理された分だけ、
そういう影がよく見えるようになった気がする。


Eddie Raynerは、やっぱり変なものを置く

そしてEddie Rayner。

「Double Happy」。

Instrumentalだ。

さらにAlbumの最後には、
Band名義の「The Choral Sea」がある。

つまり、
『True Colours』は完全なPop Albumになったわけでもない。

ちゃんと、
少し妙な出口が残っている。

これもSplit Enzだと思う。

「I Got You」がある。

「I Hope I Never」がある。

「Poor Boy」がある。

その横にInstrumentalがある。

全部をHit Single候補にする気はない。

売れなければ困る。

でも、
売れるためだけのAlbumにもしていない。

この微妙なところに、
Split Enzらしさが残っている。


1980年1月21日

1980年1月21日。

『True Colours』が、
AustraliaとNew Zealandで発売された。

同じ日、
「I Got You」もSingleとして出た。

この時点では、
まだ世界的なHitではない。

ただの新しいSplit EnzのRecordだ。

何年も売れなかったBandの、
また一枚のRecord。

それだけだった。

でも、
Radioが「I Got You」を流し始める。

そして、
人が反応し始める。

Neil自身、
Radioから流れてきた「I Got You」を聴いて、
初めてこれは大きくなるかもしれないと感じたという。

作った本人にも、
そこまで分からなかった。

Michael Gudinskiでさえ、
最初から明確なHit曲があると確信していたわけではなかった。

それが、
動き始める。


五日後、Sweetwaters

Album発売から、
わずか五日後。

1月26日。

Split Enzは、
New ZealandのSweetwaters FestivalのStageへ立つ。

数年前まで、
Englandで自分たちの居場所を探していたBandだ。

Americaでは、
客が20人ほどしかいない夜もあった。

1978年には、
解散したという噂まで流れた。

そして今、
New Zealandの大きなFestivalで、
新しいAlbumの曲を鳴らす。

まだ、
これから何が起こるのかは分からない。

でも客はいる。

しかも、
たくさんいる。

この時点でSplit Enzは、
New Zealandではもう、
遠いEnglandへ挑戦しに行った妙なBandではなかった。

帰ってきたBandだった。

自分たちのBandだった。


「I Got You」が一位になる

そして、
本当に景色が変わる。

「I Got You」が売れ始めた。

Australiaで、
No.1。

一週ではない。

八週間。

『True Colours』も、
AustraliaでNo.1になる。

こちらは十週間。

長い。

何年も、
Recordが思うように売れなかったBandだ。

演奏すればするほど、
赤字が増えていた時期もあった。

Londonで、
誰が次のSingleを出してくれるのかさえ分からなかった。

それが今度は、

Singleが一位。

Albumも一位。

Timは当時、
SingleとAlbumのChart順位を、
指で示しながら喜んでいたという。

順位が上がるたびに、
指の数が減っていく。

そして最後には、

一位。

一位。

両手の人差し指だけが残る。

こういう話はいい。

大成功したRock Starの話というより、
ずっと売れなかった人たちが、
Chartを毎週見て喜んでいるだけだから。


四年ぶりに、借金がなくなった

そして、
私はこの数字より、
こっちの話の方が少し好きだ。

1980年、
Tim Finnは語っている。

Split Enzは、
四年ぶりに借金のない状態になった。

四年。

Englandへ行った頃からだ。

Albumを作った。

Tourをした。

Europeへ行った。

Americaへ行った。

メンバーも変わった。

衣装も作った。

Studioにも入った。

その間ずっと、
金の問題が後ろにいた。

音楽の歴史を書くと、
ついChartや名盤の話になる。

でも、
Bandも生活している。

食べる。

家賃を払う。

移動する。

機材を直す。

Studio代もかかる。

成功したということは、
拍手が大きくなったことだけではない。

ようやく、

「来月どうする?」

を少し考えなくてよくなった。

それも、
かなり大きな成功だったと思う。


追いかけていた世界が、彼らに向く

そして、
ここから話はもう一度Englandへ戻る。

Americaへも行く。

今度は、
1976年とは違う。

Split EnzがEnglandへ行って、
「僕たちを見てください」
と言うのではない。

『True Colours』と「I Got You」が、
先に海を渡っていく。

A&M Recordsが、
Australasia以外での契約を結ぶ。

かつてSplit Enzが何年も追いかけた場所から、
今度はSplit Enzの方へ話がやって来る。

ずいぶん時間がかかった。

でも、
そういうものなのかもしれない。

自分から追いかけている時には、
なかなか振り向いてもらえない。

もう自分の場所でやろうと決めた頃に、
向こうが気づく。

少し腹立たしい。

でも、
悪くない。


Timの隣にいた18歳は、もういない

第8章で、
18歳のNeil FinnがLondonへ来た。

Phil Juddの抜けた場所へ入った。

あの時はまだ、
大きすぎる靴だったと思う。

『Dizrythmia』では、
昨日までのSplit Enzの音が残っていた。

1978年には、
Philが一度戻ってきた。

Lutonでは、
山ほどDemoを作った。

『Frenzy』では、
Timと一緒に「Give It A Whirl」を書いた。

そして『True Colours』。

「I Got You」。

ここでようやく、
Neil Finn自身の曲が、
Split Enzの歴史を動かした。

でも、
これはTimからNeilへ主役が交代したという話ではない。

まだ違う。

Timは、
このAlbumでも中心にいる。

ただ、
隣に立っている弟が、
もう「弟」だけではなくなった。

二人のSongwriterがいるBandになった。

これは、
この先のSplit Enzを考えるうえで、
かなり大きな変化だった。


『True Colours』という名前

そしてAlbumのTitle。

『True Colours』。

実はこの名前は、
このAlbumのために突然作られた言葉ではない。

それ以前にSplit Enzが作っていた、
未発表曲のTitleから取られている。

その曲自体は、
Albumには入っていない。

でも名前だけが残った。

これも、
少しSplit Enzらしい。

曲は消える。

Titleだけ残る。

Demoは残る。

別の曲になる。

昔のIdeaが、
何年も後で戻ってくる。

第10章でLuton Tapesを書いた時にも感じたけれど、
このBandの音は、
Albumごとに綺麗に整理出来ない。

前の時代の欠片が、
次の時代へ少しずつ入り込んでいる。

『True Colours』も同じだった。

突然変わったわけではない。

『Dizrythmia』がある。

1978年の大量のDemoがある。

Lutonがある。

「I See Red」がある。

『Frenzy』がある。

その全部を通って、

『True Colours』まで来た。


やっと、追いついた

Split Enzは、
何年も時代と少しズレていた。

New Zealandでは変わりすぎていた。

Australiaでも最初は理解されなかった。

やっとEnglandへ行ったら、
Punk Rockが始まった。

Americaまで行ったら、
客が20人ほどしかいない夜があった。

Phil Juddが離れた。

Mike Chunnが離れた。

Emlyn Crowtherもいなくなった。

Robert Gilliesもいなくなった。

それでも続けた。

Malcolm Greenが来た。

Nigel Griggsが来た。

Neil Finnが来た。

そして1979年の終わり、
Tim Finn、Neil Finn、Eddie Rayner、Noel Crombie、
Nigel Griggs、Malcolm Green。

この6人で、
『True Colours』を作った。

音を減らした。

衣装も少し変わった。

曲を短くした。

でも、
Split Enzをやめたわけではない。

むしろ、
余計なものを少しずつ外したら、
中にずっとあったものが見えるようになった。

Melody。

少し変なCode。

Timの声。

Neilの声。

EddieのKeyboard。

NigelとMalcolmのRhythm。

そして、
Noelの妙な感覚。

それを世界の方が、
ようやく見つけた。

1972年に、
Tim FinnとPhil JuddとMike Chunnたちが始めたBand。

名前もまだSplit Endsだった。

Drummerさえいなかった。

あれから、
ずいぶん時間が経った。

1980年。

「I Got You」が、
Radioから流れている。

Albumも売れている。

借金もなくなった。

でも、
たぶん本人たちには、
まだ実感なんて追いついていなかったと思う。

ずっと扉を叩いていたら、
ある日突然、
向こうから開いた。

そういう時、
人間は案外すぐには入れない。

「え、今?」

くらいの感じなのかもしれない。

ただ、
扉は開いた。

今度こそ、
本当に。

そしてSplit Enzは、
もう一度Englandへ向かう。

今度は、
誰にも知られていないNew ZealandのBandとしてではない。

「I Got You」を持ったBandとして。

ここから先は、
今までとは少し違う忙しさが始まる。

売れなかったBandが続けるのも大変だ。

でも、
売れてしまったBandにも、
また別の面倒が待っている。

Split Enzは、
ようやくそこまで来た。

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