🎵 SPLIT ENZ史 第1章

はじめに

正直に言えば、当時を知る方の中でも、彼らの歴史そのものに興味を持って、ここまで読んでくださる方はそれほど多くないかもしれません。

それでも、私は書いておきたい。

Split Enzは、私がこれまで聴いてきた音楽の中で、かなり大きな場所を占めているバンドです。

Tim Finn、Phil Judd、Mike Chunn、Eddie Rayner、Noel Crombie、Neil Finn、Nigel Griggs、そしてPaul Hester…

メンバーが変わり、音が変わり、何度も危ういところを通りながら、それでも彼らが残した音楽は、長いあいだ私のそばにありました。

若い頃に夢中になって聴いていたものを、歳を重ねた今、もう一度その始まりから辿ってみたい。

誰かにSplit Enzの素晴らしさを説明しきるためではありません。

いつかもう少し歳を取った私自身が、この文章を読み返すためでもあります。

「あの頃、どうして自分はこんなにこの人たちの音が好きだったんだろう」

その答えを、今のうちに少しだけ残しておきたい。

そんな個人的な理由から始める、Split Enzの記録です。

―― Thinkback80s

まだSplit Enzではなかった頃
Tim FinnとMike Chunn、少年たちが見ていた海

Split Enzの歴史をどこから始めるか。

「I Got You」から始めるなら簡単だ。

Neil Finnが書いた曲が世界へ飛び出して、『True Colours』が成功した1980年。私たちがよく知っているSplit Enzの姿も、そこにはある。

でも、それでは少し遅い。

『Mental Notes』でもない。

Phil JuddとTim Finnが出会った1971年でも、まだ少し遅い気がする。

もっと前。

まだTim Finnが「Tim Finn」ではなく、Brian Finnと呼ばれていた頃まで戻ってみたい。

派手な衣装もない。

Eddie Raynerの鍵盤もない。

Noel Crombieの奇妙な美術もない。

Neil Finnは、まだ遠くTe Awamutuにいる弟だ。

あるのは、寄宿学校の少年たちと、楽器と、

「ここを出たら何かやろう」

という、まだ形になっていない気持ちだけだった。

Split Enzの歴史は、案外そんなところから始まっている。

あの頃、どうして自分はこんなにこの人たちの音が好きだったんだろう
楽天 / Amazon / Yahoo / メルカリ


Te AwamutuからAucklandへ

Brian Timothy Finnは1952年6月25日、ニュージーランド北島のTe Awamutuに生まれた。

後のTim Finnである。

Te AwamutuはAucklandのような大都市ではない。

Waikato地方の農業地帯にある町で、NZ Historyも、1970年代以前のTe Awamutuはバラと周囲の肥沃な農地で知られる町だった、と紹介している。

今ではTimとNeil Finnの故郷として、ニュージーランド音楽を知る人間には別の意味を持つ地名になった。

Timは後年、自分が育ったTe Awamutuについて興味深いことを話している。

周囲には多くのMāoriの友人がいて、歌うことや、その文化を身近に感じながら育ったという。

そしてFinn家にも歌があった。

後年の兄弟のインタビューを読むと、母Maryはハーモニーが上手く、皿洗いをしながら兄弟にハーモニーをつけさせたという話まで出てくる。

家に人が集まれば歌う。

TimとNeilも引っ張り出される。

家族の中に音楽があった。

まだレコード会社もチャートもない。

ただ、人が集まったら歌う。

考えてみれば、Finn兄弟のあの独特のハーモニーのずっと手前には、こういう台所の時間があったのだろう。

私はこういう話が好きだ。

後に何万人もの前で歌う人間にも、最初の音の置き場所がある。

豪華なスタジオではない。

皿の音がして、誰かが話していて、その横で家族が歌っている。

たぶん音楽というのは、最初から「音楽」として始まるわけではない。

生活の中に混ざっている。


Sacred Heart College

十代になったBrian Finnは、AucklandのSacred Heart Collegeへ進む。

カトリック系の男子校で、当時は寄宿生活だった。

ここで出会ったのが、

Michael Jonathan Chunn――Mike Chunn。

後のSplit Enzのベーシストである。

この二人の出会いについて、Mike自身がかなり面白い話を残している。

最初にTimを見たのは、校長との面接を終えてTimが部屋から出てきたところだったという。

Timが出る。

Mikeが入る。

それだけ。

映画なら何か意味ありげな音楽でも流れそうだが、本人たちは当然そんなことを知らない。

後にニュージーランド音楽史の一部になる二人が、

学校の廊下ですれ違った。

最初は、それだけだった。

でもMikeがTimを本当に意識したのは音楽だった。

音楽室でTimが歌うのを聞いた。

Mikeの記憶では、Beatlesの「Yesterday」のような曲だったのではないかという。

そして、

この人、歌えるな。

そう感じた。

Mikeは後年、Timには最初から歌を届ける感覚があった、という意味のことを話している。

まだ「I Hope I Never」もない。

「Six Months in a Leaky Boat」もない。

もちろん「I Got You」を書く弟もバンドにはいない。

ただ学校の音楽室で、一人の少年が歌う。

もう一人の少年が、

こいつ、いいな。

と思う。

長いバンドの歴史なんて、案外そんな小さな瞬間から始まる。


Mike Chunnは、最初からステージに立ちたかった

TimとMikeは、似ていたようで少し違う。

Mikeはかなり早い段階から、

人前に出たかった。

本人がそう言っている。

人の前へ出て何かやりたい。
見てもらいたい。

だったらミュージシャンは最高じゃないか。

そんな少年だった。

このあたり、後のMike Chunnを知ると少し面白い。

彼はSplit Enzのベーシストとして終わった人ではない。

Split Enzではベースを弾きながら、バンドの歴史を細かく記憶していた。そして後にはマネージメントや音楽業界の仕事へ進み、Split Enzの歴史を『Stranger Than Fiction』として残すことになる。

でも、それだけではない。

やがてPhil Juddがバンドを離れ、Split Enzが新しいギタリストを必要とするようになった頃、Mikeはニュージーランドで、まだ18歳だったNeil Finnの演奏を見ることになる。

そこでNeilに何かを感じたMikeは、TimやEddie Raynerに彼を推薦する。

後にSplit Enzの音を大きく変え、「I Got You」を書き、さらにCrowded Houseへと進んでいくNeil Finn。

そのNeilを兄TimのいるSplit Enzへ導くうえで、Mikeは重要な役割を果たした。

この話は、もう少し先で詳しく書きたい。

なにしろ面白いのは、Mike自身もまた、Split Enzを離れていくことになるからだ。

自分がずっと居続けるわけではないバンドに、その後の未来を大きく変える少年を連れてくる。

後から歴史を辿っていると、こういう偶然に時々立ち止まってしまう。

そしてSplit Enzを離れた後、Mikeは弟のGeoff ChunnとCitizen Bandを結成する。

Finn兄弟とはまた違う形で、Chunn兄弟も同じバンドで音を鳴らすことになる。

さらに演奏する側を離れてからも、Mikeは音楽から離れなかった。

レコード会社や音楽著作権の仕事に携わり、後には若いソングライターたちを支援するPlay It Strangeを立ち上げる。

~話を当時に戻して~

学校にいた頃、

人前に出たい。
自分たちのレコードを作りたい。

そう思っていた少年は、ずいぶん遠くまで行った。

でも、やっていることの根っこは、案外変わっていないのかもしれない。

誰かの中にある歌を見つけて、それが外の世界へ出ていく場所を作る。

18歳のNeilに何かを見つけたことも、そのずっと後に若いソングライターたちを支えるようになったことも、私にはどこか同じ線の上に見える。

そして今回、1969年のSacred Heart College時代まで遡ってSplit Enzの始まりを書くことができるのも、Mikeが当時の写真や記憶を残し、後になって自分たちの歴史を語ってくれたからでもある。

ただ黙って後ろでベースを弾く人ではなかった。

一方Timには、もっと内側から出てくるものがあったように見える。

歌。

メロディー。

言葉。

そして、まだ本人にも説明できなかったであろう「外へ行きたい」という感覚。

二人は少し違った。

でも、その二人をつないだのが音楽だった。


1969年、Walter Kirby Music Competition

ここからは、写真というかなり強い証拠が残っている。

1969年。

Sacred Heart Collegeで行われたWalter Kirby Music Competition。

Tim FinnとMike Chunnは同じバンドで出場している。

Mike Chunnの個人アーカイブに、そのときの写真が残されている。

写っているのは、

Brian(Tim)Finn。

Mike Chunn。

Geoff Chunn。

そして学校の仲間たち。

つまり、

Split Enzが生まれる約3年前には、TimとChunn兄弟はすでに同じ場所で演奏していた。

そして彼らは、その年のコンテストで優勝している。

Mikeによれば、彼らはこの大会にかなり本気だった。

当時は電気楽器が使えない。

だから普段使っていないコントラバスを引っ張り出し、目印になるテープまで貼って練習した。

しかも一年だけではない。

Tim、Mike、Geoffを中心にメンバーを替えながら、3年続けて挑戦したという。

そして1969年、ついに勝つ。

演奏した曲についてMikeは、Bee Geesの「To Love Somebody」だったと思う、と回想している。

ここが面白い。

後のSplit Enzというと、

変な服。

変な髪。

変なコード。

変な動き。

まあ、だいたい変である。

でも、その根っこにあるのは、

「ちゃんと練習して勝ちたい」

だった。

意外と普通だ。

いや、むしろものすごく普通だ。

人と違うことをやる人間というと、最初から天才が突然変なことを始めたように語られがちだけれど、実際には学校のコンテストに出て、一生懸命練習して、勝って嬉しかった少年たちだった。

私はこっちの方が好きだ。


寄宿学校という閉じた場所

ただ、Sacred Heart Collegeでの日々が楽しいだけだったわけではない。

Mikeは後年、当時の寄宿学校をかなり強い言葉で振り返っている。

自由に出入りできるような環境ではなかった。

閉じ込められているように感じることもあった。

だからこそ、

「ここを出たら何をするか」

を考え続けたという。

Mike。

弟のGeoff。

Tim。

三人とも、

学校を出たら、自分たちがやりたいことをやる。

Mikeにとってはステージに立つこと。

Geoffにとっても演奏すること。

そして何より、

自分たちの演奏が入ったレコードを作ること。

Mikeは、それが大きな目標だったと話している。

まだ自分の曲さえほとんどない少年が、

自分のレコードを作りたいと思っている。

いいなあと思う。

今ならパソコン一台あれば録音できる。

私たちは録音ボタンを押せば、とりあえず何か残せる。

でも当時、レコードになるということはずっと遠かった。

スタジオ。

機材。

レコード会社。

プレス。

流通。

全部が向こう側にある。

だから「自分のレコードを作りたい」は、今よりずっと大きな夢だったはずだ。

閉じた寄宿学校の中で、

外の世界を考える。

その感覚は、後のSplit Enzにも少し残っている気がする。

彼らの音楽には、ときどき妙に「ここではない場所」へ行こうとする感じがある。

もちろん、これは私の聴き方だ。

でもMike自身が、寄宿学校の閉塞感の中で外へ出た後の夢を膨らませていた、と話していることを知ると、あの音の少し遠くを見る感じが、以前とは違って聞こえる。


学校を出ても、まだSplit Enzにはならない

Sacred Heart Collegeを出た後、

Tim、Mike、Geoffらは本当にバンドを始める。

Stillwater。

メンバーにはTim Finn、Mike Chunn、Geoff Chunn、Robert “Bob” Gillies、Ben Millerらがいた。

後のSplit Enzにつながる名前が、もういくつか並んでいる。

これはさぞかし才能あふれるバンドだったのだろう。

……と思ったら、

Mike Chunn本人の評価が容赦ない。

かなり酷いバンドだった。

Neil Young。

Elton John。

そういう曲をコピーしていた。

オリジナル曲を書くわけでもない。

Mike自身、

「自分たちは良いバンドではなかった」

と認めている。

これもいい。

後から歴史を見ると、何でも伏線にしたくなる。

「この頃から才能の片鱗が――」

とか書きたくなる。

でも本人が、

いや、下手だったよ。

と言っている。

だったら、そのままでいい。

下手だった。

でもやめなかった。

私は50代になってもギターを弾いているせいか、最近はこっちの方に妙に反応する。

最初から上手かった話より、

上手くないのに続けた話。

何かになりそうでもないのに、また集まった話。

そういう方が信用できる。


Timは大学へ行く

1971年。

TimはUniversity of Aucklandへ進む。

NZ Historyでは、TimがそこでPhil Juddと出会ったことを、Split Enzの始まりとしている。

ただ、そこへ行く前のTimは、

「ロックバンドを作って世界へ行く男」

ではなかった。

後年のインタビューでTim自身が、

小さな町、小さな国で育ち、芸術的な感覚は持っていたものの、自分の周囲には「アーティスト」と呼べる人間がいなかった、

という意味のことを話している。

自分が芸術の側へ行くことなど、現実離れしていた。

19歳頃になって初めて、

他のものを捨てて、そちらへ行ってもいいのではないか、

と思うようになった。

これを読むと、Split Enzが最初から壮大な計画で作られたバンドではなかったことが分かる。

Tim自身も、自分が何者になるのかまだ知らなかった。


「まだ何者でもない」という時間

ここまでの話には、

Split EnzらしいSplit Enzが、まだほとんど出てこない。

それでいいと思う。

Eddie Raynerはいない。

Noel Crombieもまだ、あの独特な役割では現れない。

Phil JuddもまだTimの人生をひっくり返していない。

NeilはTe Awamutuにいる。

「Split Ends」という名前すらない。

あるのは、

Brian Finn。

Mike Chunn。

Geoff Chunn。

友人たち。

寄宿学校。

学校の音楽室。

Bee Gees。

Neil Young。

Elton John。

コントラバス。

そして、

自分たちのレコードを作りたいという夢。

それだけだ。

でも後から見ると、

この「それだけ」が妙に大きい。


TimとMikeは、同じ夢を見ていたのか

おそらく完全に同じではなかった。

Mikeはステージに立ちたかった。

Timは歌った。

Geoffも演奏した。

それぞれ少しずつ違う。

それでも、

学校を出たら何かやろう。

ここではないところへ行こう。

その気持ちは共有していた。

MikeはSacred Heart時代について、閉じられた環境だったからこそ、外へ出た後の夢を大きくしていったと振り返っている。

これはSplit Enz史を考えるうえで、私はかなり重要な証言だと思う。

なぜなら、このバンドは後に何度も同じことをするからだ。

ニュージーランドからオーストラリアへ。

オーストラリアからイギリスへ。

イギリスからアメリカへ。

売れなければ、また次へ。

レコード会社を失っても次へ。

金がなくなっても次へ。

メンバーが辞めても次へ。

何度も、

ここではない場所へ行こうとする。

その最初の小さな形が、

Sacred Heart Collegeの寄宿舎にいた少年たちだったのかもしれない。


そして、Phil Juddが現れる

Mike Chunnの証言には、Split Enz史を考えるうえで決定的な言葉がある。

Stillwaterについて話した後、

Phil Juddが現れた瞬間、

すべてが変わった

と話している。

Mikeによれば、それ以前の自分たちは決して良いバンドではなかった。

ところがPhilがAucklandへやって来てTimと出会った。

そこから、

それまでとは白と黒ほど違うものが始まった。

Phil Juddは普通のギタリストではなかった。

Mikeの表現を借りれば、

まるで別の惑星から来たような人間だった。

ギターを手にしても、

「こう弾くものだ」

というところから始めない。

自分なりの使い方を探す。

変なチューニング。

変なコード。

変な音の置き場所。

そこへTimが入る。

Philの中から出てきた奇妙なものを、

Timがメロディーや曲の形へ持っていく。

Mikeは二人を、

互いを補い合うソングライターだったと振り返っている。

ここで初めて、

私たちが知っているSplit Enzの扉が開く。

でも、その扉を開ける前に、

私はこの第1章をここで終えておきたい。


1969年。

Sacred Heart College。

Tim FinnとMike Chunnがいる。

まだ誰もSplit Enzを知らない。

本人たちだって知らない。

学校の音楽コンテストでBee Geesを一生懸命練習して、

勝って喜んでいる。

寄宿生活の中で、

ここを出たら何かやろう、

自分たちのレコードを作ろう、

そんなことを考えている。

Stillwaterを作る。

あまり上手くない。

Neil Youngをやる。

Elton Johnをやる。

それでも楽器を置かなかった。

その先に、

大学がある。

Room 129がある。

そして、

Phil Juddという、少し変わった男がやって来る。

Mike Chunnは後になって、

Split Enzは本当の意味では、

Phil JuddがAucklandへ来てTim Finnと出会ったところから始まった

と振り返った。

だったら、Split Enzが始まる直前の景色は、

ここまででいい。

まだ派手な服はない。

奇妙な髪型もない。

世界的ヒットなんて、影も形もない。

あるのは、

音楽室で歌う少年と、

それを聞いていた友人。

そして、

まだ名前のついていない何か。

次の章で、

Phil Juddがその中へ入ってくる。

そこから音は、急におかしくなる。

たぶん、いい意味で。

  • #ロック

  • #ライナーノーツ

  • #音楽史

  • #BeeGees

  • #おじさんギタリスト

  • #SplitEnz

  • #TimFinn

  • #バンド史

  • #ニュージーランド音楽

  • #スプリットエンズ

  • #ニュージーランドロック

  • #ToLoveSomebody

  • #ティムフィン

  • #MikeChunn

  • #マイクチャン

  • #GeoffChunn

  • #SacredHeartCollege

  • #WalterKirbyMusicCompetition

  • #Thinkback80s


  • #洋楽

    紹介した音源・CDを探す

    ※この欄にはアフィリエイトリンクが含まれます。価格・在庫はリンク先でご確認ください。

    このサイトを応援する

    SouthWindMusicは個人で運営しています。 サイト運営維持のため、ご支援いただけると嬉しいです。

    PayPalで応援する

    ※金額は自由にご入力いただけます

    コメントする