アーティスト: BUCK-TICK
『…IN HEAVEN…』
発表:1988年
作詞:櫻井敦司
作曲:今井寿
収録アルバム:『SEVENTH HEAVEN』(1988年)
Producer:BUCK-TICK
Label:Invitation / Victor
『JUPITER』
発表:1991年
作詞:櫻井敦司
作曲:星野英彦
収録アルバム:『狂った太陽』(1991年)
Producer:BUCK-TICK
Label:Invitation / Victor
嫌というほど聴かされた音が、今も残っている
私がやりたかった音楽は、そっちじゃなかった
以前も書いたが、高校時代、私はメロウロックがやりたかった。
もう少しメロディーを聴かせる曲を、できれば自分の好きな洋楽に近い感じで演奏したかった。
ところが、バンドの連中が持ってくるのは、
BOØWY。
JUN SKY WALKER(S)。
ZIGGY。
THE BLUE HEARTS。
そして、BUCK-TICK。
……お前ら、もう少し俺の希望も聞いてくれないか。笑
まあ、今思えば当時の人気バンドばかりなのだから、
彼らの選曲は至って普通だったのだろう。
少数派だったのは、どうやら私の方だったらしい。
もちろん、どのバンドも嫌いだったわけではない。
ただ、私が頭の中で鳴らしていた音楽と、
彼らが演奏したがる音楽には、少し距離があった。
誰かが新しいCDやテープを持ってきては、
「これ聴いてみろよ」
と渡してくる。
そして次の練習では、もうその曲をやることになっている。
いや、ちょっと待て。私はまだ返事をしていない。笑
そんなことを繰り返しているうちに、気づけば私も曲を覚えていた。
バンドというのは、なかなか思いどおりにはいかない。
でも、一人で好きな曲ばかり弾いていたら、きっと出会わなかった音楽もある。
そう考えると、あの頃の連中には少し感謝している。
少しだけ、だけれど。
そんな高校時代の記憶の中に、BUCK-TICKの『SEVENTH HEAVEN』がある。
嫌というほど聴いた『SEVENTH HEAVEN』
1988年6月21日に発売された『SEVENTH HEAVEN』。
BUCK-TICKのメジャー第2作となるアルバムだ。
このアルバムは、もう勘弁してくれと思うくらい聴いた。
いや、正確には聴かされた。
おかげで『…IN HEAVEN…』は、覚えたというより覚えさせられた。
別に自分からやりたいと言った覚えはないのだけれど。笑
でも不思議なもので、何度も聴いて、何度も合わせていると、
好き嫌いとは別のところで身体が覚えてしまう。
イントロが鳴れば、次に何が来るか分かる。
指も勝手に準備を始める。
こっちはそんなに乗り気じゃなかったはずなのに。
あの頃のBUCK-TICKは、まだ若さと勢いが前に出ていた。
走るようなリズムに、少し冷たいギターの音。
その上を櫻井敦司の低い声が通っていく。
私が好きだったメロウロックとは、ずいぶん違っていた。
それでも、嫌というほど繰り返した曲というのは、なかなか消えてくれない。
何年も演奏していなくても、ふと耳にすると、当時のスタジオの空気まで戻ってくることがある。
曲だけではない。
誰がどこで間違えたとか、誰かが妙なアレンジを始めたとか。
そんな、どうでもいいことまで一緒に思い出す。
肝心なことは忘れるくせに、こういう記憶だけは妙にしぶとい。
困ったものである。笑
ギターなのに、ギターらしくない音
当時の私は、BUCK-TICKのギターがどうにも不思議だった。
今井寿の音は、ときどきギターなのにギターらしく聞こえない。
何だ、この音は。
そう思っているうちに、星野英彦のギターが曲を支えている。
二人ともギタリストなのに、やっていることがずいぶん違う。
今井寿は、音を少し変わった場所に置いてくる。
星野英彦は、その隣で曲が崩れないように支えている。
もちろん、いつもそうだというわけではないけれど、
私にはそんなふうに聞こえることが多かった。
そして、樋口豊のベースとヤガミ・トールのドラム。
この二人がいるから、あの独特なギターの音も曲の中で落ち着くのだろう。
そこへ櫻井敦司の声が入る。
あの低い声。
高校時代は、単純に格好いい声だな、くらいにしか思っていなかった。
でも、今になって聴くと、曲によってずいぶん表情が違うことに気づく。
冷たく聞こえるときもあれば、驚くほど柔らかく聞こえるときもある。
声を張り上げなくても、ちゃんと届いてくる。
あれは簡単にできることではないと思う。
それに、BUCK-TICKの曲は、いざ自分で弾こうとすると意外に難しい。
音を間違えているわけではない。
リズムも合っている。
なのに、何か違う。
ギターの音色なのか、二人の重なり方なのか、それとも弾くときの間合いなのか。
若い頃は、そこまで深く考えなかった。
何しろ、半ば強制的に覚えさせられていたのだから。笑
でも今なら、あの二人のギターが作っていた独特の距離感を、少しは理解できる気がする。
好きな音楽ばかり演奏していたら、こういう発見もなかったのかもしれない。
櫻井敦司が「ポコチンロックです」と言った話
ここで、少し肩の力が抜ける話を。
1980年代後半、世の中は空前のバンドブーム。
音楽雑誌では、次々と登場するバンドをいろいろなジャンルに分類していた。
そんな中で生まれたのが「ポコチンロック」という、何とも気の抜ける呼び名だった。
中心にいたのは、水戸華之介率いるアンジーと、MAGUMI率いるレピッシュ。
そこに大槻ケンヂの筋肉少女帯、トモフスキーが在籍していたカステラなども巻き込まれていった。
なかなか濃い顔ぶれである。
しかも、それぞれ音楽性はまるで違う。
アンジー、レピッシュ、筋肉少女帯、カステラ。
これを全部まとめてポコチンロックと呼んでしまうのだから、実にいい加減だ。笑
でも、私はこういう80年代の空気が嫌いではない。
レピッシュのMAGUMIによると、そもそものきっかけはアンジーだった。
いろいろな音楽ジャンルがあるけれど、自分たちをあえて分類するならポコチンロックだ、と言い出したらしい。
それを聞いたレピッシュも、自分たちもそれでいいと乗っかった。
何とも自由な話である。
当時、レピッシュとBUCK-TICKは同じ1987年9月21日にメジャーデビューしている。
レコード会社も同じビクターだった。
1988年には『東北ロックサーキット』というイベントで、レピッシュ、BUCK-TICK、アンジー、PERSONZなどが一緒にツアーを回っていた。
音楽性は違っても、楽屋や移動先では同じ時代を過ごしていた仲間たちだったのだろう。
そして、このポコチンロックという呼び名は、BUCK-TICKにも飛び火する。
MAGUMIが2023年のインタビューで語ったところによると、今井寿は自分はポコチンロックではないと否定していたそうだ。
ところが、櫻井敦司は違った。
MAGUMIは櫻井の声まねをしながら、本人が「ポコチンロックです」と認めていたことを振り返っている。
……あっちゃん。笑
あの容姿で、あの声で、ポコチンロックを名乗ってしまうのだから困る。
しかも、今井寿の方は否定していたという。
いや、普通は逆じゃないのか。
もちろん、これは私の勝手なイメージなのだけれど。
私はこういう話が好きだ。
音楽雑誌の写真やステージの姿だけを見ていると、ミュージシャンというのはどこか特別な人間に見えてしまう。
でも、楽屋に戻れば、くだらない冗談を言ったり、仲間と笑ったりする。
そういう普通の人間としての時間がある。
MAGUMIは、櫻井と二日間飲み続けたことも語っている。
最後には櫻井の方から寿司を食べに行こう、そして今日は家に帰ろう、と促されたそうだ。
二日間も飲み続けて、ようやく帰宅の話になる。
なかなかすごい話である。
あの姿からは想像しにくいけれど、こういうエピソードを知ると、
櫻井敦司という人が少し近くに感じられる。
あの時代のバンドマンたちは、ステージの外でもずいぶん楽しそうだったんだな。
そんなことを思う。
『JUPITER』は、今でも弾いている
高校時代に『…IN HEAVEN…』を覚えさせられた私だが、
BUCK-TICKにはもう一曲、今でもたまに演奏する曲がある。
『JUPITER』だ。
1991年のアルバム『狂った太陽』に収録され、
同年10月にはシングルとしても発売された。
作詞は櫻井敦司。
作曲は星野英彦。
この曲は、誰かに覚えさせられたからではない。
自分で弾きたくなる曲だ。
高校時代には『…IN HEAVEN…』を半ば強制的に覚えさせられていた私が、今では自分からBUCK-TICKを弾いている。
まったく、何がどうなるか分からない。笑
『JUPITER』は、勢いで押し切るような曲ではない。
メロディーがゆっくり流れて、その後ろにギターがいる。
派手なことをしているわけではないのに、あのギターがなくなると、
曲の印象がずいぶん変わってしまう。
こういう曲は、弾いていて気持ちがいい。
無理に音を足さなくてもいい。
歌の邪魔をしないように、必要なところで鳴らせばいい。
『JUPITER』を弾いていると、
高校時代に自分がやりたかったメロウロックのことを、少し思い出す。
あの頃に探していた音と、案外遠くないところにBUCK-TICKもいたのかもしれない。
当時は、そこに気づかなかっただけなのだろう。
そして、この曲にはもう一つ、忘れられない背景がある。
櫻井敦司は『惡の華』ツアーの最中に母親を亡くしている。
『JUPITER』と『さくら』は、その母親への思いを込めて書かれた曲だと、BUCK-TICKの公式ヒストリーにも記されている。
そのことを知ってから聴くと、曲の印象が少し変わる。
ただ美しいメロディーというだけではなくなる。
何かを失ったあと、それでも残っているものを確かめるような歌に聞こえる。
私はこの曲を弾くとき、あまり大げさに感情を込めようとは思わない。
むしろ、余計なことをしない方がいい。
音を伸ばすところは、きちんと伸ばす。
消えるところは、自然に消えるのを待つ。
それだけで十分な気がする。
若い頃なら、もう少し何かを足したくなったかもしれない。
今は、音が消えていく時間も悪くないと思える。
あの声と、あの頃の自分
3年前の2023年10月19日。
櫻井敦司は57歳で亡くなった。
神奈川県のKT Zepp Yokohamaで行われていたライブの途中、
体調を崩し倒れ、病院に搬送された。
死因は脳幹出血だった。
訃報を知ったとき、私は高校時代のことを思い出した。
あんなに『SEVENTH HEAVEN』を聴かされて、少々うんざりしていたはずなのに。
ずいぶん勝手なものだ。
でも、あの頃の自分が聴いていた声が、もう新しく聴けなくなってしまった。
そのことは、やはり寂しい。
高校時代に一緒に演奏していた連中は、今どうしているのだろう。
誰が最初に『SEVENTH HEAVEN』を持ってきたのか。
誰が『…IN HEAVEN…』をやろうと言い出したのか。
そこまでは、もうはっきり覚えていない。
ただ、曲だけは覚えている。
そして『JUPITER』は、今でもたまに弾いている。
あれほど自分の好みとは違うと思っていたBUCK-TICKが、
何十年もあとになって、自分のギターの中に残っている。
何とも皮肉な話だ。
もし高校時代の私に、将来もBUCK-TICKを弾いているぞ、と教えたら、
きっと嫌な顔をするだろう。
「いや、俺はメロウロックがやりたいんだけど」
たぶん、そう言う。
うん。知ってる。
でもまあ、ちょっと聴いてみろよ。
『JUPITER』、なかなかいい曲なんだぞ。
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